自然と寄り添う暮らし

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あののぉ vol.46 2018 夏

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〔お宅訪問〕36年目の日本家屋に住む

良質な自然素材と熟練した職人の技で作られた日本家屋は、時を経るごとに味わいを増していきます。S邸の玄関ポーチに使われた淡いピンク色の石は、今では貴重な岡山県産の「万成石」。「桜御影」とも呼ばれる日本の銘石のひとつです。使われた素材ひとつひとつに職人の想いが感じられるお宅を訪ねました。


 城下町として栄えた丸亀市。丸亀城のお膝元に佇む一軒の日本家屋。その佇まいは36年を経ても色褪せることなく、むしろ堂々と日本人の心を写しだしていました。
 日本家屋の伝統的な形には、お客様をもてなし、四季を楽しむ日本人の心があります。また、隅々まで職人の心遣いが行き届いた伝統技法の数々は、使いやすさを生むだけでなく、美しさも兼ね備えています。


 思わず息を呑む美しい玄関ホール。二つの障子窓から外光をやさしく取り入れ、訪れた人を心地よく迎え入れます。
 座敷にある障子は格子の縁が面取りされており、その精巧さは、家を直しに来た大工さんが驚くほどです。柱は現地まで買い付けに行った尾州檜。節のない四方無地で、狂いの少ない芯去り材が使われています。
 応接間の壁は「木擦漆喰(きずりしっくい)」。下地となる木擦(木の板を並べた状態)に直接漆喰を塗る伝統的な構法です。重ねた漆喰は2センチと分厚く、高級感があります。洋室ながら、和の素材と技術をふんだんに取り入れたシックな印象のお部屋です。
 部屋や廊下ごとに違った表情をみせる照明は、すべて大工さんの手によるもの。その場所に合わせて手作りされています。竹釘を使うなど細やかなところにまで大工さんの技が見えます。


 中庭の見えるダイニングの席がSさんのお気に入りの場所です。ここで食事をしたり、手紙を書いたり、時折庭に来る鳥たちを眺めながら過ごします。小上がりの座敷は障子を閉めて個室として使う事も出来ます。太鼓張りの障子は組子の両面に和紙を張るため、桟の影がうっすらと浮かび上がり、柔らかな印象で和の空間と洋の空間をつなぎます。回りの桟を細くするために、本来は桟に付けられる取っ手は組子の一部として工夫して付けられています。


 日本家屋の伝統的な形には、日本人の心が表れています。明るい陽光が差し込み、季節のものが飾られた玄関はお客様を気持ちよくお迎えするため。また、自然とのつながりを大切にする造りも、四季のある日本ならではです。
 厳しい日差しや激しい雨風などから家を守ってくれる深い軒、広い縁側、閉めきっていても自然光を取りいれる障子など、これらは内と外を緩やかにつないでくれる大切なもの。
 ここで過ごすことで日本人の心を取り戻すような清々しい空気に満ちたお家でした。


丸亀市S邸
1982年1月竣工
延床面積:541.54㎡(164.10坪) 
構造:木造2階建て
設計・施工:(株)菅組

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〔森里海から vol.46〕仁尾のサクラマス

文・写真 菅 徹夫

 渓流の川魚ヤマメ。ヤマメは通常「陸封型」と呼ばれ一生涯、川(淡水域)だけで生息します。しかし、時々「降海型」と呼ばれる海に下るヤマメがいます。これがサクラマスと呼ばれる魚で、ヤマメ共々環境省RDB(レッドデータブック)では準絶滅危惧種に指定されている希少な種の魚です。ヤマメは体長30㎝程にしか成長しませんが、サクラマスは50㎝を越えるまでに成長します。私自身これまで、サクラマスは北の地方に生息しているもので、瀬戸内海では馴染みがないと思っていました。しかし、なんと地元仁尾漁港で年に数匹サクラマスが揚がるという情報を最近になって知ったのです。


 仁尾漁港で時々開催される「朝獲れ朝市」。ここでは一般の人も、仁尾の沖でその朝獲れたばかりの魚が格安で手に入ります。プロのように魚を競り落とせる「せり」にも参加できます。去る2018年4月15日(日)の「朝獲れ朝市」で友人から「サクラマスがせりに出た」という情報が入りました。そのときは時既に遅く、残念ながら他の人が競り落としてしまいましたが、「次回出たら落としておいて」とお願いしておいたところ、幸運にも同年5月5日(土)の朝市でまたしてもサクラマスがせりにかけられたのです。友人が見事せり落としてくれて、生まれてはじめてサクラマスをいただくことができたのです。
お造りでいただきましたが、以前に紹介した「ビワマス」(※1)に良く似た上品な、脂がのった「中トロ」といった風情でとても美味しかったのです。


 穏やかな瀬戸内海の中でも特別静かな海と言われる「燧灘(ひうちなだ)」。なかでも仁尾の蔦島周辺は平安時代「御厨(みくりや)」(※2)として時の天皇が指定した海域だけのことはあり、豊富な魚介類に恵まれています。美味しい魚をいただくことは、生物多様性の恵みをありがたく実感できるひとときでもあります。この豊かな生物多様性を育む海が、いつまでも維持されることを願わずにはいられません。

※1 あののぉ26号参照
※2 寛治四年(1090年)に堀河天皇が瀬戸内沿岸に9個所の御厨を定めて京都賀茂社の神領として寄進された。その御厨の一つが当地・讃岐の国内海津多島供祭所(現蔦島周辺)である。

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〔建物紹介〕結婚式場 Chaînon(シェノン)


 父母ヶ浜にひびく穏やかな波の音。そのリズムにつられ、時間もゆっくりと流れます。
 その海辺に佇む建物をリノベーションし、結婚式場がオープンしました。コンセプトは「ライフスタイル+ウェディング」。コンクリートや鉄骨が見える部分をあえて残し、落ち着いたトーンで仕上げた内装。自然をテーマに装飾されたドライフラワーやヨーロッパで買い付けたアンティーク家具が並び、特別な日を演出する場所でありながらも日常に溶け込むどこか懐かしい色合いです。
 フォトグラファーとしても活躍されているオーナーが創り出すのは、繊細な光が織りなす輝きの舞台。山側のチャペルは木漏れ日の森を歩くようなやさしい光が交差します。海側の披露宴会場には余分な装飾はなく、窓からの風景が会場を彩ります。海と空の色や水面に反射する光、砂浜と潮だまりが作り出す自然の造形。部屋を飾り立てるのではなく、この場所ならではの風景を取り入れ、この土地に似合うものをそっと添えただけ。
 店名の「シェノン」という言葉はフランス語で「繋がり」を意味します。この場所にシェノンが建つまでの様々な出会い。窓が繋げる内と外の景色。そしてこの場所で深まる2人の繋がり。いくつもの繋がりがここから生まれます。
 特別な日の大切な人とのひと時を、ここにしかない時間の中で過ごしませんか?


Chaînon(シェノン)
香川県三豊市仁尾町仁尾乙202
tel:087-873-2292
https://chainonwedding.jp

2018年3月竣工
設計・施工:(株)菅組

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〔つくる つづく つむぐ お庭いじり〕第1話

 まっさらな土のキャンバスに、石を敷き、木や草花を植え、成長を見守り、また手を加える。その過程には終わりがなく、だからこそ楽しい。そんな喜びにあふれるお庭いじり。日々表情を変えて成長を続ける、とあるお庭を訪ねました。


 和をイメージし、木や石といった自然素材が使われた戸田邸のお庭。玄関の門や表札に至るまで、DIYが得意なご主人の手作りです。
 戸田邸の庭には、様々な種類の木々や草花が並んでいます。雑草もまたお庭を彩る大切な植物のひとつです。黄色い花のオヘビイチゴや小さな水色の花をつけるキュウリグサなど、雑草として扱われる草でも、かわいい見た目のものはそのまま見守ります。市松模様に石が敷かれたスペースには、ところどころスミレの花が咲いていました。仕事柄自然に詳しいご主人様から、このスミレはアリが種を運んで広げたのだと教えていただきました。スミレの種にはアリが好む香りがあり、それを巣に運び込む事で芽が出るそうです。他にもいつのまにか生えてきた植物は、鳥や風が運んできたもの。こうして多種多様な植物が増えると、それぞれにその植物を好む生き物たちが集まります。多くの種類の植物を育てることで一定の生き物が増えすぎることを防ぎ、いつのまにか生態系の輪が庭の中に出来上がります。葉の影、石積みのすきま、小さな生き物を見つけるたび、子供たちも大喜びです。また、季節の移ろいを感じさせてくれるお庭は、家族の憩いの場となるだけでなく、訪れる人や道行く人も豊かな気持ちにさせてくれます。
 まだまだやりたいことがたくさんあると笑顔でお話してくれたご主人。家族や道行く人、そして生き物たちが、この小さな森の成長を見守っています。


戸田邸(高松市)
2014年5月竣工

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〔大工のはなし〕第8回『道具箱』


新人の大工が菅組に入社し、ひとりで初めてつくる作品。それが「道具箱」です。これは、大工作業を行うのに必要な道具類(※)をひとまとめにして収納した木箱です。これを現場へ持ち運び使用します。「やりくり型」と呼ばれる左右にスライドして開閉するフタが特徴的です。写真の道具箱は約20年もの。この中には、自分の手になじむよう丁寧に手入れされた道具たちとともに、大工として努力を重ねてきた証も一緒に納められています。

※鋸(のこぎり)、鉋(かんな)、鑢(やすり)、鑿(のみ)、錐(きり)、玄能(げんのう)、墨壺(すみつぼ)、指矩(さしがね)、木槌(きづち)など。

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〔information〕

鎮守の森Project
2018菅生会植樹

2018年5月20日(日)に三豊市詫間町の船越八幡神社で菅生会(※)で植樹を実施しました。
菅生会による植樹活動は、7年前から毎年開催しています。現在までに西讃地域を中心に約5000本の在来種を植樹してきました。今後も地域の方々ともに活動を続けてまいります。
※当社の協力業者で結成する会


KOYOMI


仁尾一齣

毎年8月に開催される仁尾竜まつり
開催日:2018年8月4日(土)14時~21時頃  場所:香川県三豊市市民センター仁尾周辺



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