自然と寄り添う暮らし

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あののぉ vol.48 2018 冬

あののぉ vol.48 2018 冬

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〔お宅訪問〕店舗と住まいと家族の繋がり


「今、旬の魚は…」「この魚の美味しい食べ方は…」ご夫婦の笑顔に、お客様との会話が弾む「宇賀鮮魚店うか屋」さん。6年前、現在の場所に移転オープンした地域密着のお魚屋さんです。そのお店に繋がる住まいと、その場所であたたかな日々を過ごす宇賀さんご家族を訪ねました。


以前は道を挟んだ向かい側にお店を構えていました。1階が店舗、2階が住まいという造りでしたが、移転を機に店舗の裏に住居スペースを設け、1階のリビングから廊下を通じてスムーズにお店へ行き来できるようになりました。お店の間取りは、慣れた動線で動けるように以前のお店とほぼ同じ配置になっています。朝早く、ご主人が市場へ仕入れに出かけ、帰ってきた頃、奥様と出勤前の息子さん3人で食卓を囲みます。


住居側の門を開くと、まずお庭が迎えてくれます。完成の際にご家族みんなで植えた三本木鎮守(※)は、背丈を超えるほど大きくなっていました。シンボルツリーのモッコクの根元には、自然に落ちた種から芽が出て、ちいさな子どもたちが育っています。道路側はお客様用の駐車場になっていますが、木塀と元気な木々たちのおかげで、通りからの目線をほどよく和らげます。丸い窓の玄関を抜けると、リビングが広がります。まず目に入るのは大きなスピーカー。ご主人が二十歳のころから集め始めたもので、レコードをかけると臨場感のある音が響き渡ります。正面の壁に張られたイタリア製のタイルは、スピ―カーに合うようにご主人が選んだもの。また障子の格子デザインやウイスキーを熟成した樽を素材にした床板など、椅子に腰かけると、ご主人がこだわりぬいたお気に入りのポイントが各所に伺えます。後ろに目を向けると、デッキ越しのお庭からあたたかな陽が差し込みます。深い軒は、高いところから注ぐ夏の日差しを遮り、反対に低い位置にある冬の太陽からは、しっかりと日差しを取り込みます。


デッキにはご主人が25歳の時に購入し、以来40年以上大切に乗っているバイクが停めてあります。その傍らにあるのは息子さんのバイクです。お父さんの姿を見ているうち、いつしか2人分のバイクが並ぶようになりました。実は県外にいる下の息子さんも同じ趣味を受け継いでいるそうです。男3人、それぞれの愛車を眺めながら話をする日が来るかもしれません。キッチンに立つ奥様からも、お庭と並んだバイクが伺えます。家族の安全を祈りながら、同じ趣味で語り合えるようになった子供たちの成長を見守ります。

※三本木鎮守
菅組では家を建てたお施主様に、「シイ、タブ、カシ」の3本の苗を『三本木鎮守』と名づけてプレゼントしています。昔からその地域に根付いている「ふるさとの木」から常緑の3種を選びました。落葉樹のように葉を落とすこともなく、ほぼ手のかからない小さな「鎮守の森」になります。「小さな森」があれば、生きものたちのすみかや、人と自然が共生する「街の風景」をつくりだすことができます。


和室は長く使えるようにと、質の良い素材が選ばれました。床柱や框には今では珍しくなった樹種もあり、大切に使われている事が分かります。天井の杉板は、浮造り仕上げが施されています。何度も磨くことで固い部分のみが浮き上がり美しい木目が際立つ、伝統的な技術です。この和室の清々しさをより引き立てているのは、床の間に飾られた「千寿」の文字。ご主人のお父様が下書きなしに襖に書いたものだそうです。隣の「慶」の文字は息子さんの書。やわらかく、しかし迷いのない筆の運びは、ご夫婦から受け継いだ息子さんのお人柄の良さを現しているようです。


店舗と住まいが一体となった宇賀邸は、家族の絆をより深く繋ぐ、あたたかい木の家でした。


三豊市宇賀邸
2012年10月竣工
延床面積:店舗≫49.63㎡(15.04坪)
     住宅≫180.04㎡(54.55坪) 
構造:店舗≫木造平屋建て
   住宅≫木造2階建て
設計・施工:(株)菅組

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〔森里海から No.48〕大谷石と徳次郎石の石蔵集落


文・写真 菅 徹夫

 大谷石は栃木県宇都宮市北西部の大谷町付近一帯で採掘される軽石凝灰岩(※)で、建築材料としても好んで使われてきました。建築家フランク・ロイド・ライトが、旧帝国ホテルに大々的に使用したことで一躍有名になった石材です。大谷石の採掘場は、地下で切り出す坑内掘りが多いことが特色です。大谷資料館として一般開放されている地下採掘場跡は、圧倒的なスケール感で素晴らしく、非日常的空間体験ができます。
※山の噴火の時に地上に噴き出された軽石を主な構成物質とするもの。


 その大谷資料館のほど近く、西根地区の徳次郎町というところに、大谷石を使った石蔵が点在する集落があります。車であたりを走るだけですぐに個性的な石蔵をいくつも見つけられます。大谷石で装飾された窓枠や窓台、庇、持ち送り、オーダーなど手の込んだものも多く現存しています。同じデザインのものはほとんどなく、競って個性を主張しているかのようです。なかに大谷石とはちょっと違った表情の石蔵もいくつか見受けられました。ライトグレーのシックな色合いのこの石は徳次郎石と呼ばれるものらしく、地元徳次郎町でしか採れない貴重な石のようですが、現在はほとんど流通していないようです。徳次郎石の外壁はジョイント部に漆喰を塗りつけ、海鼠壁のような独特のパターンをつくっているものもあります。また屋根材としても使われており、大谷石の石蔵以上にこだわった造りとなっているように見受けられました。
 長年の風雪に耐えた大谷石や徳次郎石の風合いは、集落の風景をつくっています。地元の材料を使った、ここにしかない建築とそれらがつくりだすここでしか出会えない街の風景。そんな風景が日本中にもっと増えると良いのに、と強く思う今日この頃です。


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〔建物紹介〕企業主導型保育園 「ちぬやキッズ」


 業務用冷凍ポテトコロッケで業界No.1のシェアを誇る味のちぬやさんの一角に事業所内保育園が完成しました。大きな屋根が目印の、やさしい木の保育園です。社内の女性が中心メンバーとなり、「わが子をあずけたい保育園」を目指して計画が進みました。
 床に使用したのは香川県産檜。無垢の木は、ハイハイする赤ちゃんや裸足で駆け回る子どもたちの手足をそっと包み込むような心地よい手触りです。広い保育室は吹き抜けになっており、天井の杉の木目がやさしい印象を与えてくれます。この開放的な間取りを叶えてくれたのは、太陽の熱と空気を利用するOMソーラーシステムです。新鮮な空気を取り込みながら、太陽の熱であたためられた空気を建物全体に循環させるため、エアコンのように風があたったり、熱が一カ所に溜まったりせず、広い空間でも、まるでひだまりのような暖かさを感じます。


 各所にちりばめられたきめ細やかな工夫は、保育園に子どもを預けた経験のあるお母さんたちのアイデアから生まれました。外から入れるようにデッキ側に設けられた靴箱。お手洗いには、外遊びの途中でも利用できるように、中と外の両方に出入口があります。広いデッキは、日向ぼっこやプール遊びなど様々に使うことができ、子どもたちの楽しそうな顔が思い浮かびます。
 木に包まれた明るい保育室には大黒柱が堂々とたち、子どもたちの目にも力強く映ることでしょう。
 自然素材と自然の力に支えられた、お家でくつろいでいるように居心地の良い保育園です。


ちぬやキッズ:香川県三豊市豊中町本山乙653番1  お問合せ:0875-62-5221
*一般の方の入園も受け付けています。詳細は上記連絡先へお問い合わせください。

2018年9月竣工  構造:木造2階建て OMソーラー搭載
設計:図子弘規・建築計画工房  施工:(株)菅組

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〔つくる つづく つむぐ お庭いじり〕第3話


 丸亀市の緑豊かな森に近い住宅地の一角にある木の家。そこには、季節ごとに草花たちが次へ次へと花を咲かせ、いつも違った風景を見せてくれるお庭が存在します。
 お手入れをする奥様。幼いころから植物が好きで花を摘んできては部屋に飾っていたそうです。今でも庭の花で生け花を楽しんでいらっしゃいます。母の日にはお庭の花で花束をつくりプレゼントするほど、この庭はたくさんの種類の草花に囲まれています。


庭へと続く門へのアプローチに高低差をつけたことで、少しだけ見える丸亀市の風景にワクワク感が募ります。陽だまりと日陰それぞれに、その場所を好む植物が自然な形で植わっていて一歩一歩足を進めるごとに新しい発見があります。ご自身が育った地域でよく見ていたワレモコウやツリガネニンジン。この場所に自生していたものや山で見つけて移植したものなど、ひとつひとつ丁寧に思い出をお話してくださいました。手作りの藤棚では、8年目を迎える藤の花が毎年たくさんの花と香りで楽しませてくれます。草花の配置は全て奥様の感覚で植えられています。
 それぞれの草花たちが主役になれるようきちんと整い、隅々まで手をかけ、愛情が行き届いていることが分かるお庭でした。


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〔大工のはなし〕第9回『再び蘇る』


仁尾町にある古材と薪ストーブのお店「古木里庫」に保管していた古箪笥の天袋の扉です。
元々は障子紙が貼られていましたが、残念ながら無残な姿でした。そこで大工の棟梁が、浮造りの加工をした杉板をはめ込みました。そして、デザインされた引手は元々この天袋のものです。
技術ある先人たちが思いを込めて作り上げた家具たち。その思いも含め受け継ぎ現代に蘇らせる。
それも時代を受け継ぐ私たちの大切な役割のひとつだと思います。

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〔information〕

・菅組ホームページリニューアル

弊社ホームページのリニューアルいたしました。
スマートフォン、タブレット端末からも快適に閲覧いただけるようになりました。今後も多くの皆様にご利用いただけるサイト作りを目指してまいります。


・仁尾一齣 「百々手(ももて)祭り」



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