自然と寄り添う暮らし

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あののぉ vol.50 2019 夏

あののぉ vol.50 2019 夏

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〔お宅訪問〕家族の時間を刻みともに育つ家



家族と過ごす時間は、かけがえのないひととき。子供たちの笑い声や駆けまわる音、料理をつくる音、美味しい香り、心地よいそよ風や優しい光がK邸いっぱいに広がります。



心地よいものに包まれる暮らし

 おむすび山と麦畑、そして瓦屋根が連なる讃岐の風景。その中にそっととけ込むようにK邸が佇んでいます。リビングダイニングには、木の家具が大好きな奥様が「ボタン木工所」でオーダーした椅子や机が並びます。壁や床の素材を決める時は、お気に入りの家具に似合うようにと考えました。無垢の床のリビングでは、木がぬくもりを保ってくれるので子供たちは冬でも裸足で過ごすことが多いそうです。家を建てた頃はキズがつかないかと気を付けていましたが、そのキズや経年変化で濃くなっていく色合いも、木が持つ味わいだと感じ、今では変化を楽しんでいます。
 まわれる間取りのリビングダイニングキッチンでは、子どもたちが自由に駆け回ります。開放的な間取りで、部屋のどこにいても子供たちに目が行き届き、家事をしていても安心して遊ばせることが出来ます。一段下がったピットリビングは空間を緩やかに分け、ちょっとした腰掛や収納としても活躍しています。


 玄関の広い土間は、ご主人様の趣味のスケートボードや自転車を見せながら収納したり、雨の日にボール遊びをしたりと便利な空間です。夏は他の部屋よりも涼しく、土間で冷やされた空気が心地よくリビングへと流れます。天井の木目は柔らかい雰囲気をつくり、木が使われたリビングへと繋がります。
 奥様がアパート暮らしの時から集めていた食器は、以前は置き場所も限られていて、思うように使いきれていませんでした。今は、キッチンの背面に設けたオリジナルの棚に見せながら置くことで、いつでもお気に入りの食器を眺め、お料理をしながらどれを使おうかと選べるようになりました。これから新しい食器に出会うのも楽しみです。
 ご夫婦ともに料理をされるため、キッチンは広く計画しました。楽しそうに料理をするご両親の姿を見て、子どもたちも率先してお手伝いをします。生地を混ぜ、時には包丁を使って見守られながら料理し、お母さんと同じようにできた時はとっても嬉しそうな笑顔を見せてくれました。



 ホットプレートも親子で料理ができるメニューのひとつです。ウッドデッキで食事をすることも多く、お好み焼きやたこ焼き、ホットケーキなどを作ります。外で食べるご飯は心地よく、ござをひいて準備を始めると、楽しみに待っている子どもたちが自然に食器を運んでくれます。七輪でサンマを焼いたり、春先にはこたつを出して鍋をしたり。お野菜もお魚も残さずおいしく食べているお子さんたちを見ていると、家族で食卓を囲む時間を本当に楽しく感じていることが伝わります。
 感性を育み心地よい時間が流れるK邸は、これからもおおらかに家族を受け止め支えてくれることでしょう。お気に入りに囲まれ、「心地いい」をたくさん集めて、家族とともに成長する木の家です。


ボタン木工所
香川県観音寺市粟井町4190-4
TEL: 0875-27-8478

観音寺市K邸
2017年3月竣工
延床面積:137.96㎡(41.80坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:(株)菅組

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〔森里海から No.50〕高開(たかがい)の石積



文・写真 菅 徹夫

  徳島県吉野川市美郷大神(みさとおおがみ)の高開(たかがい)集落に残る石積の段畑。そこには、まるで空に上る階段のように石垣が続く美しい風景が残っています。徳島県は急峻(きゅうしゅん)な土地に農地を開き家を構えてきた所が多く、石積みが多く残っています。それらはお城の城壁によく見られるようなカッチリとした隙間のない石垣ではなく、あまり整形していない野面石を使用した、方向などの規則性のない乱積みという方法で組み上げられています。また空石積みと呼ばれる、コンクリートやモルタルを一切使用しない積み方です。空石積みの良いところは、崩れたり緩んだりしたら何度も積み直せるところです。コンクリート擁壁は壊れたら瓦礫(がれき)になってしまうのに対し、環境に優しい構法でもあると言えます。さらに自然石のつくりだす様々な空隙(くうげき)は多様な生き物の生息場所としての機能も併せ持ち、ビオトープの一つのタイプとして生物多様性の保全にも大いに貢献します。人が作り上げた場所が生物多様性を高めているのです。人と自然が共生している素晴らしい例ですね。



 空石積みは棚田や段畑など農地の擁壁面に使われることが多く、全国各地に残っています。石積みの技術は専門家ではなく、農家の人たちによって家族や地域で代々受け継がれてきたのです。そうした素人たちが積んだ石の擁壁が棚田や段畑の美しい風景をつくり出してきたのです。石はあたり前のようにすぐ近くで採れる自然石を使うので、地域によって特性があり異なる表情をもちます。その地域性がそれぞれの里の風景をつくり、独自の文化として各地に根付くのです。高開の石は独特の横長で角張った形状を持っています。この石の表情がこの地ならではの段畑の風景を形成しています。
 全国に残る石積みの風景、この風景を守り継承していくこと、また新たに地域独自の風景を生み出していくこと。特別な場所としてではなく、日常の風景の中に残し、又新たにつくっていくこと。そうしたことが豊かで魅力的な地域、街をつくることのひとつの重要なファクターになるのだと思うのです。高開の石積みを眺めていると改めてそんな思いを強くします。
 安易にコンクリート擁壁に頼るのではなく、素朴な石積みを建築や土木の様々なシーンで検討することは今後持続可能な社会をめざす上で、とても大切な事の一つだと思います。

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〔現場紹介〕さくらの山保育園 新築工事


 さぬきの原風景を代表するおむすび山のひとつ飯野山。そのやさしいフォルムに見守られるように、木造平屋建て保育園の建設が進んでいます。
 まっすぐ伸びる長い廊下には太陽の光を取り入れる天窓があり、晴れの日や雨の日の空の様子を子どもたちに教えてくれます。
 使われている木材は「LVL」と呼ばれる「単板積層材」です。厚さ4ミリ程の板を十分に乾燥させ圧着することで、乾燥による反りや割れなどの変化が起きず、梁や柱といった構造材に適した耐久性の高い建材になります。従来よりも多い20層以上の板を接着することで、性能のばらつきも少なくなります。 



また材料の木は「FSC認証」を取得した森林から使用されています。FSC認証は、世界中のすべての森林を対象とし、環境保全の点からみて適切に管理され、経済的にも継続可能な森林と認められたものを証明する森林認証制度です。伐りだされた木は、幹の太さによって使い分け、余すことなく建築材として有効活用されています。
 木材を繋ぐのは専用の金物です。木材を削る範囲を最小限に抑え、耐久性を確保しています。
 こうして構造用LVLと専用金物を組み合わせたJWOOD工法を用いることで、耐震、耐久性に優れた安心安全な木造保育園が実現します。

1.太陽の光が差し込む天窓を設けた廊下。 2.接合部分の専用金物。木を削る範囲を最小限に抑えている。 3.「LVL」とよばれる建材。20層以上の板からなる。 4.現場では工事の進み具合や仕上がりの確認の他、安全面にも不備がないか随時チェックしながら進めている。


◆さくらの山保育園 新築工事
香川県丸亀市飯野町東二字高柳甲542-2

2019年9月竣工予定  構造:木造平屋建て
設計・監理:樫谷建築事務所  施工:(株)菅組
現場監督:左から大池・藤澤・礒川

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〔特集〕OM東讃会



 とある春の日。菅組でお家を建てていただいた3家族で結成された「OM東讃会」にお邪魔させていただきました。皆さんのお家には、太陽の熱を使って新鮮な空気を取り入れ、室内環境を整えてくれるOMソーラーシステムを搭載しています。
 
※香川県(讃岐)では高松市などの東側の地域を「東讃(とうさん)」・中部地域を「中讃(ちゅうさん)」、西側の地域を「西讃(せいさん)」と呼んでいます。



出会いは10年ほど前、それぞれのお家の完成見学会に参加したり、子供さんが同じ学校だったり、何度か会って話しをするうちに意気投合。そして2010年8月、ビオトープのあるM邸のお庭で手づくり料理を持ち寄ったバーベキューを開催しました。これがあまりにも楽しかったため「OM東讃会」と名付け、現在に至るまで続いているのでした。季節ごとにそれぞれのお家でお花見や餅つきをし、時にはお家を飛び出し県外へドライブに行ったこともあるそうです。趣味も性格も違いますが、皆さんが家に自然素材を使い、自然の力を利用した空調システムを選んだのは、深い芯の部分で価値観が似ていて、こんなにも気が合うのかもしれません。「遊びに行っても、自分の家のように心地いいです。友人というより家族です」とおっしゃる皆様。信頼しきった団らんの様子をみていると、本当にそう感じます。




 理想の家が出来て完結ではなく、そこに暮らすことで意識が変わったり、繋がりが増えたり、新しい世界が広がることは、家づくりをお手伝いさせていただいたスタッフにとってこんなに嬉しいことはありません。家づくりが住まい手さんにとって幸せな日々のはじまりになれば幸いです。
1. 麦畑に映えるM邸。 2.「いぇーい!」ドローンに向かって手を振る大人たち。一方で、奥の息子さん2人は肉に夢中。 3.分厚いステーキ肉を焼く。みんな出来上がりを楽しく待つ。 4.まるで大家族のよう。楽しい話しは尽きません。 5.乾杯!テンションも最高潮に。 6、7、8.各家族が持ちよった絶品の料理やデザートたち。

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〔大工のはなし〕第11回『背割りと矢入れ』


「背割り」とは、木の芯を持っている木材(芯持ち材)の乾燥による割れ(星割れ)を防ぐために、直径の約二分の一程度の深さの割りを入れることです。乾燥前にあらかじめ背割りを入れることで、乾燥による材の縮小で起こる割れを防ぎます。
この割れ目を入れる場所を決めるのは難しいとのことです。木材の美しさを引き立たせて見せる面を決め、その裏側に傷や反りを考慮して割れ目を入れます。
「矢入れ」は、この背割りをより完全にするため、乾燥の状態を見極め、割れ目にくさびを数回に分けて打つことです。打ち込む力加減も大変重要になります。
これらは大工の長年の経験と感覚で行われています。

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〔information〕

・菅組の原寸場(げんすんば)

原寸場は、主に社寺の原寸図を作図する場所です。薄いベニヤ板に墨で書いていきます。
破風板(はふいた)の勾配や、海老虹梁(えびこうりょう)、懸魚(げぎょ)などのデザインをすらすらとで書き上げています。これは棟梁の長年の経験で磨かれた職人の技です。
現在は、この技を次世代へ繋げるため、棟梁の息子さんを含め、同じ現場で働く若手大工へ技術を伝えています。



・仁尾一齣 「仁尾(家の浦)真夏のひととき」



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