自然と寄り添う暮らし

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あののぉ vol.53 2020 春

あののぉ vol.53 2020 春

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〔お宅訪問〕海とともに暮らす家



瀬戸内海を一望できる緑豊かな場所に、優雅にたたずむ一軒の家。ひとたび足を踏み入れると、そこには海や里山が織りなす讃岐の風景をより美しく、表情豊かに味わうことのできる住まいがありました。海がある暮らしを日々愉しみ、家とともに穏やかな時を重ねるWさんご夫婦を訪ねました。



三豊市詫間町にある、木造2階建ての一軒家。Wさんご夫妻が暮らすこの家は、自然の恵みをふんだんに取り入れた、海が見える住まいです。クルーズが趣味で、瀬戸内海には毎年のように船で訪れていたというご主人。何度も足を運ぶうち、穏やかな海のある暮らしに魅せられて三豊市への移住を決めたと言います。

最初は、小さな隠れ家のような住まいにしようと考えていました。しかし、海に面したこの土地をひと目で気に入り、設計士と話をするなかで、家への夢が縦へ横へと大きく広がっていったそうです。こうして、讃岐の地に魅せられたご夫婦の、海とともに暮らす日々がはじまりました。

家を建てるとき、ご主人が希望したのは「ストーリーのある家」でした。玄関へと続く緩やかなアプローチから、住まいのストーリーは始まります。1歩、また1歩と歩みを進めながら、おおらかな讃岐の風景と四季の移り変わりを味わうことができます。


玄関を開けると、視線の先には静かにきらめく瀬戸内海が窓一面に広がり、ご夫婦や訪れた人たちをあたたかく迎えてくれます。リビング・ダイニングは天井や床の木目と白壁がやわらかく馴染み、自然に包み込まれるような心地よさ。キッチン奥の窓には緑が覗き、里山の息づかいが聞こえるかのようです。

この家の大きな魅力のひとつが、窓越しにさまざまな景色を望めることです。たとえば、海を一望できるリビングにある、3枚の大きな窓。窓枠を額縁に見立て、1つの景色を3枚に切り取ることで、それぞれを刻一刻と表情を変える風景画として愉しむことができます。

リビングだけではありません。寝室には、あえて縦長の窓が設けられています。他の窓と高さをそろえたほうがいいのではと、奥様ははじめ思ったそうです。しかし、いざ暮らしてみると、縦に長いおかげで朝日がやわらかく差し込むことに気づいたと言います。窓からは海と里山、樹木が見え、自然が織りなす風景はまるで山水画のよう。家を通して景色を見ることで、その土地の豊かさや美しさをより深く味わえるのです。
「この家には何枚もの画があるので、1つの景色でも見飽きることがありません」とご主人。海がある風景も、切り取り方によってこうも見え方が変わるのかと、新たな発見に日々驚くそうです。四季折々の変化を感じられる住まい。そこには海や里山、太陽や月が教えてくれる刻の流れに、そっと身を任せたくなる心地よさがありました。



家づくりは風景づくり

海が見える大きな窓のほかに、リビングダイニングでひときわ目を引くのが薪ストーブです。静かにゆらめく橙色の炎が、寛ぎの時間をもたらしてくれます。
薪ストーブはご主人の希望でした。都会で暮らしていると、自然の炎の色や音、香りを直接味わえることはなかなかありません。薪ストーブの準備や手入れには手間がかかりますが、今ではそれも楽しみの1つ。手をかけながら一緒に暮らしていける住まいがいいと、ご主人は言います。
そして、家を建てるうえでご夫婦がこだわった点がもう1つ。それは、行き交う人や町並みにも優しい家であること。外壁に焼杉を使った落ち着きのあるたたずまいは、里山の風景にしっくりと馴染んでいます。土地を整え、家を建てたことで、ご近所の窓や車道からも穏やかな海が見えるようになりました。
「家づくりは風景づくり。そう考えると、より楽しくなりますね」とご主人。讃岐の風景をつくる家でありたい――。多島海を見ながら暮らす家は、住まい手とともに時を刻みながら、たくさんの人とのつながりを深めてくれることでしょう。


三豊市W邸
2019年7月竣工
延床面積:169.01㎡(51.22坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:(株)菅組

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〔森里海から No.53〕舟屋(ふなや)



文・写真 菅 徹夫

 京都府の北部、日本海に面した地域に二つの舟屋集落があります。ひとつは伊根町伊根地区にある通称「伊根の舟屋群」と呼ばれる集落で、重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
 海の水際ぎりぎりのところに、妻側を海に向けた2階建ての建物が伊根湾を取り囲むように建ち並び、独特の景観をつくり出しています。伊根湾は日本海でありながら南向きで波が穏やかなこと、また日本海独特の潮の干満差がほとんどないことなどの条件が整って、これらの舟屋群が成立しています。干満差が3m以上もある瀬戸内沿岸で育った私たちには想像しがたい光景です。しかも、今でもこの地区には230棟の舟屋が残っているというから驚きです。



photo:左. 溝尻の舟屋景観  中央. 溝尻の舟屋の船を取り込む斜路(砂浜が入り込んでいる様子がよくわかる) 右. 昔の溝尻の舟屋群

 この地区のもう一つの特徴は、海側の舟屋と道路を隔てて主屋があり、主屋と舟屋に挟まれたかたちの集落が形成されていること。というのも、伊根の道路はもともと個人の中庭でありながら半公共的に他人が通ることもできるコミュニティ空間だったそうです。海側だけでなく、陸側の街も良い風情を醸し出しています。



photo:伊根地区
左上. 船を取り込む斜路(伊根では石かコンクリート)  右上.末広がりの舟屋連棟。プロポーションが格好いい。
左下.昔の舟屋群(茅葺きで美しい) 右下. 陸側の町並み



 二つめの舟屋集落は「溝尻の舟屋(阿蘇の舟屋)」と呼ばれるもので、天橋立で区切られた地区に37軒ほどの舟屋が並びます。こちらは重要文化的景観に指定されています。伊根の舟屋は外海の舟屋ですが、溝尻のものは内海の舟屋で、伊根よりもさらに穏やかな水面に浮かぶ小屋群です。船を引き上げる斜路が砂でつくられているものもありました。伊根のものは、砂だと海に持って行かれるため、ほとんどコンクリートでできていました。内海の穏やかさを物語るつくりだと思います。
 
 伊根の舟屋は今や有名な観光地になりましたが、溝尻の舟屋はまだあまり知られていないと思います。場所も近いので
ぜひ、対照的な二つの舟屋群をご覧になってはいかがでしょうか。

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〔お知らせ〕宿泊施設 ❛ 讃岐緑想 OPEN❜



旅のはじまりは、自分の暮らす場所から一歩、足を踏み出した瞬間から。
いつもと変わらない風景が、次第に新しく、初めて目にする景色へ。
そのすべてに、素直に身を、心をゆだねてみる。

香川県三豊市仁尾町。
昔ながらの趣きが残るこの町に、 溶け込むようにして佇む建物があります。

建築家・堀部安嗣が手掛ける、讃岐緑想。
この土地の風土と等身大の暮らしを受けとめる、
「泊まる住宅」です。
ここには、決して特別な
おもてなしはありません。
あるのは、この土地の
“当たり前“。
海や山、風や音、天気や温度、地域ならではの恵みや人々の暮らしと表情…。
穏やかな自然と、四季の気配が迎えてくれるのです。

讃岐緑想での滞在をとおして記憶に深く刻まれるのは、
たしかにそこにある時間と仁尾の風景。
そして、手間を楽しむこと。

ここでゆったりと、
体感してみてください。



◆土地伝統のフォルムと素材◆
香川県の土を一部配合し焼成している菊間瓦を筆頭に、焼き杉、越屋根、下屋など、讃岐地方に昔から伝わる材料や形を採用。風雪に耐えて残ってきたこの地ならではの特徴が、心地良い暮らしへと導きます。

◆コンパクトかつ豊かなプランニング◆
基本寸法に通常よりも広い四国間を使用し、ゆったりと設計されています。一方で、動線はシンプルかつ、コンパクトに。狭いところ、広いところ、明るいところ、暗いところ…。住宅の中にさまざまな場所が散りばめられています。

◆優れた温熱性能がもたらす自由◆
断熱・気密性能を高めて、室温のムラをなくしています。北側に居ても寒くなく、2階に上がっても暑くありません。どの場所に居ても身体が楽で、自由に暮らすことができる。お気に入りの場所でくつろぐ、至福のひと時をお過ごしください。



◆讃岐に創る堀部建築◆

 建築は、体感こそすべてです。また、短時間で分かることより長い時間をかけて分かることこそに価値を見出しており、そこに住宅の真価があると考えています。土地の四季や天候、自然に寄り添う家。
その家をメンテナンスして、手をかけながら維持していくこと。仁尾町に佇む讃岐緑想は、泊まることでその真価を少なからず感じていただけるようになっています。ぜひ、ゆっくりと過ごしながら、この住宅の魅力を感じていただきたいと思います。




◆讃岐緑想 宿泊内容◆

料金:1棟4名まで 57,200円(税込)~/泊  ※5名~7名 6,600円(税込)/名
   *基本料金はご宿泊日によって変動します。詳細はHPの宿泊予約カレンダーにてご確認ください。

チェックイン :16:00~19:00
チェックアウト:11:00まで

朝食:事前予約制 2,000円(税込)/名 ※香川県の食材を用いた料理

TEL:0875-82-3837

MAIL:ryokusou@suga-ac.co.jp

HP:https://www.sanukiryokusou.jp


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〔大工のはなし〕第14回『約80歳の釿(ちょうな)』


「釿」とは曲がった柄と、刃で構成される大工道具です。昔はこの道具を使って、木の皮を剥いでいたそうです。現在では使える人も多くないといいます。
この釿は約80年前に山口棟梁の父親が使っていたものです。
曲がった柄は、当時のまま。丈夫なニレの木を熱湯でゆっくり曲げてつくったそうです。
長年使い続け短くなっていった刃。数年前、その短くなった刃の部分に新たに刃を鍛接(※1 )、鍛造(※2 )しました。
道具も技術も次世代へ受け継ぐために、今日も棟梁は奮闘中です。

※1 2つの金属材料を熱と圧力によって接合すること
※2 金属を打ち鍛えること

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〔information〕



・古民家宿泊事業 仁尾縁(におよすが)「多喜屋(たきや)」 

仁尾縁は時を紡ぎ、この地の風景となってきた古民家を改修した「古民家の宿」です。

この地での時間が、心のよりどころ「縁(よすが)」になりますようにという思いを込めて仁尾縁という名にしました。

その第一棟目の宿泊施設が「多喜屋(たきや)」です。
江戸末期の建物で、柱や梁は当時のものを修復して、リノベーションしています。

■2020年春OPEN予定■
お問い合わせ:宿泊事業準備室 TEL:0875-82-3837  MAIL:info@suga-ac.co.jp



・仁尾一齣 「神の使いキツネと満開桜」


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