自然と寄り添う暮らし

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あののぉ vol.61 2022 夏号

あののぉ vol.61 2022 夏号

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Building Report 「美しい砂浜に建つ 白い方形屋根の店」


百歳書店

美しい砂浜に建つ 白い方形屋根の店

新緑眩しい晴れた日。穏やかな瀬戸内海に面する父母ヶ浜の目の前に建つ「百歳書店」を訪ねました。
開店前のお店にお邪魔すると、窓も床も綺麗に磨かれ、商品たちは整然と並び、凜とした空気が漂っています。ガラス越しに広がる海が目に飛び込むと、取材陣から「わぁ!」っと声が溢れました。「オープンして一年、色々ありますが四季折々変化する空と海の色は、何にも勝る風景です」とオーナーの今川さん。お店のこと、大切にしている想いやこれからの事を伺いました。


父母ヶ浜

百年の物語を紡ぐ書店

 香川県三豊市仁尾町にある父母ヶ浜。天空の鏡と称されるこの美しい砂浜の目の前に、「百歳書店」はあります。「書店」と名の付く店ですが、本の販売はありません。ここを訪れる人に届けたいのは「これまで百年続いてきたものや、これから百年続けたいものと、その想い」。店内には今川さん所縁の、地元の伝統工芸品、加工食品や調味料、飲料などが並びます。そして、それぞれの商品の横にそっと添えられている、淡い藍色の文庫本。ページをめくると、その商品の作り手さんの創業のことや商品への想いが綴られています。
 また、その後には「ここからはみなさまがつくっていくページです」とあります。見渡せば店内には白紙のメッセージカードがあちらこちらに用意されており、誰でも自由にメッセージを書くことができます。お客さまの想いも本の白いページに綴られ、1冊の本ができあがるのです。

 文庫本の中には、1冊だけ白いカバーの本があります。父母ヶ浜の景色を守り続けてきた「ちちぶの会」の取り組みをつづった1冊です。父母ヶ浜がインスタ映えスポットになるずっと前から、この海を守りたい、多くの人にこの風景を見に来てほしいと活動を続けている「ちちぶの会」。
 「小さな頃から慣れ親しんできたこの景色が、地域の人たちの手で守られていたということを、大人になって帰ってくるまで知りませんでした。とても衝撃を受け誇らしく思うと同時に、私もこの海を守りたいという想いで、百歳書店をつくりました。『ちちぶの会』の活動を、世代を越えて伝え、想いを受け継ぐことが百歳書店の役割だと考えています。
 上棟式では餅投げをして、『ちちぶの会』の皆さんが餅を受け取ってくださったことが心に残っています。『この風景を守るために、私には何ができるのか…』想いのバトンをいただいた、そんな気持ちです」と今川さん。

 「ちちぶの会」の本には訪れる人たちの感動のことばが日々積み重なっていきます。
それは、この風景を守り、またこの場所との縁をつないでくれた人たちへの今川さんからの恩返しなのでしょう。
 
photo:空から見る父母ヶ浜と穏やかな海

■動画:父母ヶ浜の美しさを守る「ちちぶの会」



百歳書店

大樹のように 百年を生きた檜と共に

 百歳書店の建物を支えるのは、店主自ら伐採にも立ち会った、樹齢100年を越える、太さが12寸(約36センチ)もある檜の大黒柱です。その周りに放射線状に組まれた梁と柱、構造材の全てに香川県産檜を使用。店内のオブジェやテーブルの天板、什器の脚にも、大黒柱の先端や枝まで余すことなく加工し使いました。その天井は高く開放的で、清々しい真っ白な漆喰壁に、現し木造ならではの木目の美しさが際立ち、温もりある店内になっています。
 外観は、広がる空を引き立て、風景に溶け込むようにと高さを低く設定。後方の山の斜傾に合わせ、どの角度からも美しく見えるなだらかな方形屋根が特徴です。建物の土台には凹みがあり、その姿は海面に浮かぶ小さな島のようにも見えます。
 歩行者側の2面を大きなガラスで囲っているのは、父母ヶ浜を訪れた人が海へ向かう視界を遮らないようにという配慮から。軒を深く設え、訪れる人と店内の商品を、太陽の光から守ります。

photo:軒を深くし、屋根の傾斜を抑え、景色に溶け込むシンプルな建物


百歳書店

百歳書店と行き交う人々の光景を見た時、今川さんにもうひとつの想いが沸き上がりました。
──この父母ヶ浜の風景の中に、地元の人たちから観光客、お年寄りも子どもたちも集う「シアワセな風景」をつくりたい──。
 それはまるで砂浜に建つ大樹のように。この場所で根を張り、年輪を重ね、軸を太く真っ直ぐ育てていきたい。幹を広げ、新しいことにもチャレンジしていきたい。そうして、枝葉が広がり、誰かの木陰になって、みんながここに集い、憩う。これまでの百年とこれからの百年の物語がここから紡がれ、語り継がれていく。
 今川さんのイメージする「シアワセな風景」は、これからもこの父母ヶ浜のキャンパスに描かれ鮮やかに広がっていくようです。

 むかしとみらいの暮らしをつなぐ 百歳書店――。
「まだ始まったばかりです」と、話してくださる今川さんの言葉も、迷いがなく真っ直ぐしなやかで、しっかりとここに根を張っているようでした。

photo(右):香川県仲多度郡まんのう町で伐採した樹齢約100年の檜の大黒柱 (左上):平日にも関わらず、たくさんの人がこの美しい父母ヶ浜を訪れています(左下の右):伐採した檜の先端を利用した「枝付きテーブル」 (左下の左):店内から望む景色


【百歳書店】
住所:〒769-1404香川県三豊市仁尾町仁尾乙2686-3
営業時間:SNSでご確認ください
定休日:月、火曜
tel:0875-23-7177
mail:hyakusai331@gmail.com


百歳書店(建物概要)
2021年1月竣工
延床面積:98.74㎡(29.92坪)
構造:平屋建て
設計・施工:(株)菅組

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工事現場紹介「神島化学工業(株)詫間工場 化成品倉庫 新築工事」


「神島化学工業(株)詫間工場 化成品倉庫  新築工事」

現場監督の仕事

 建設工事の現場監督を目指す新入社員は、配属された現場で施工管理業務を学びます。合間に建築士や施工管理技士の試験を受け、合格すれば入社数年の若手社員も現場監督としてチャレンジできます。
 現在市内の現場で所長を任されている、まだ40代半ばでありながら関わった工事数は50棟以上という現場一筋の眞鍋と、中堅でありながらJV(※)に参加したり大型案件の所長を任されるなど多彩な経験を持つ30代の佐倉に話を聞きました。
※JV… ジョイントベンチャーの略で、建設業では複数の企業で設立する共同企業体を指す

* 聞き手/菅組 マーケティング 西原澄子


「神島化学工業(株)詫間工場 化成品倉庫  新築工事」

西原「現場監督の仕事について教えて下さい。」
眞鍋「工事全体を指揮する重大な役割を担います。主な仕事は4つ。品質管理、安全管理、工程管理、予算管理です。私は公共施設や病院、オフィスや工場などを扱う一般建築部門ですので、工事規模が大きい時は大変さもありますが、やりがいもひとしおです。」

西原「ずっと現場監督をされて経験豊富だと思いますが、難しいことはどんなことですか?」
眞鍋「現場は一つとして同じではないこと。設計もお客様も毎回違いますから、一つ一つが新しいチャレンジです。悩んだり迷うこともありますが、うまくいった時は自信につながります。」

西原「この仕事を続けてこれたのはどうしてだと思いますか?」
眞鍋「ものづくりへの好奇心があったからですね。これはどうなってるんだろう、ここはどうしてだろう、次はこうしようという好奇心、探究心が原動力になっています。」

西原「現場監督に必要な素質は?」
佐倉「向上心ですね。常に自らを磨いていくことが必要です。現場は試行錯誤の連続。その一つ一つに誠実に向き合う根気と向上心がなければ、良いものはできません。」

西原「大事にしている心得はありますか?」
佐倉「『お客さまファースト』です!お客さまが納得できるものを追求し提供すること。それが一番です。

photo(左):足場が組まれた外観 (右):現場監督による墨出し作業


「神島化学工業(株)詫間工場 化成品倉庫  新築工事」

私たち菅組は地域に根差した総合建設会社として「顧客第一主義」を理念に掲げ、実績を積み重ねてきました。現場監督たちは安全第一で隅々まで気を配り、協力会社さんと共に汗を流し、建築現場の最前線に立っています。その姿は同じ社員としても誇らしく、学びの多い取材でした。

photo(上):協力業者と打ち合わせ (下):毎日、何度も現場状況の確認巡回を行う


現場監督(左から) ※熊谷のみ総務部所属。新入社員の研修中
眞鍋 則和(所長)・佐倉 光・松谷 一磨・香川 育哉・樋笠 徹太・熊谷 優一

現場名:神島化学工業(株)詫間工場 化成品倉庫 新築工事
場 所:香川県三豊市詫間町
構 造:鉄骨造
規 模:約1,100㎡
設計・監理:(株)菅組
施 工:(株)菅組

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古木里庫Letter


古木里庫 「くうかい」

  菅組では、香川県の伝統ある建物を残したい、未来へ紡ぎたいという想いから、古民家再生や、古材を家や店舗に再活用するという取り組みを積極的に行っています。
 その取り組みの中で生まれたのが、解体せざるを得ない古民家や蔵から出た、柱や梁などの部材をストックする古材格納庫「古木里庫」です。

 古木里庫では柱や梁のほかに、民家の解体をしたときに出てくる障子、簀戸、付書院の窓など、300枚以上の建具や欄間を保管・販売しています。
これらは、新築の家や店舗のアクセントや、改修工事の際に使われます。月日が経過した建具たちには、古材独特の味のある美しさがあります。

 今回は、古木里庫の建具たちを使っていただいたお店「くうかい」をご紹介します。

photo:お店の壁一面に飾られた古建具や欄間(くうかい観音寺)


古木里庫 「くうかい」

使用例(上):築150年の古民家をリノベーションした店内(くうかい高瀬) (下):お店のホール(くうかい高瀬)


古木里庫 「くうかい」

使用例(上):間仕切り壁(くうかい高瀬) (右下):出入口の戸、レジのカウンター ※タンスも古木里庫(くうかい高瀬) (左下):出入口の戸(くうかい観音寺)

【焼き鳥・醤ラーメン くうかい高瀬】
住所:〒767-0011 香川県三豊市高瀬町下勝間15−1
tel:0875-82-9870

【醤ラーメン・醤ぎょうざ くうかい観音寺】
住所:〒768-0067 香川県観音寺市坂本町6丁目4−8
tel:0875-82-9798


古木里庫

解体で集められた古い建具は、職人さんの技術と、個性が詰まったものが多く、量産で作られていく建具にはない魅力があります。
 付書院の窓の組子細工や彫り物は、職人の見せ場であり大切に残していきたい日本の宝でもあると思います。その技術をひとつでも多く残していくお手伝いに日々励んでいます。

photo:古木里庫にある組子細工が美しい欄間や多種多様の建具

古材と薪ストーブのお店 古木里庫
住所:〒769-1404香川県三豊市仁尾町仁尾乙264
営業時間:10時~17時
定休日:不定期(ホームページでご確認ください)
tel:0875-82-3837
mail:kokiriko@suga-ac.co.jp

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〔森里海から No.61〕生態系に繋がる庭


〔森里海から No.61〕生態系に繋がる庭

文:菅 徹夫 
写真:植野咲子 菅 徹夫

  建築や住宅の植栽を含めた外回り(外構計画)は、建築の設計においてとても大切なものです。建築を引き立てる要素として、また街の風景をつくる要素としてもその役割は大きいものがあります。なかでも、植栽計画における植物の果たす役割はランドスケープデザインとしてもとても重要です。植栽工事の施されている建築とそうでないものとでは、あきらかに周辺空間の豊かさが違ってきます。
 そんな大切な庭づくりの際に提案させていただきたいのが在来種植物による樹木計画です。昔から日本にある在来種の植物をできるだけ多くの種類植栽することで、庭としての役割のうえに、小さな生態系(ビオトープ)として地域の自然と繋がることができます。そしてそこは野鳥や昆虫など野生生物の生息場所、中継場所としての機能を持ち始めます。人々の心を癒やす緑の空間がエコロジカルネットワーク(地域の生態系をつなぐ)の役割をも併せ持つ庭として機能し始め、人と自然を繋ぐ架け橋になってくれるのです。

photo:多喜屋の玄関前(できるだけ多くの種類を混植、ほとんどが地域のDNAをもつ。お手本は自然の野山)



生物多様性の保全、回復は今 「気候危機」の問題同様に極めて重要な課題となっています。建築・土木をつくる集団として、生物多様性に対して何が出来るのかを本気で考えていく必要があると思っています。エコロジカルネットワークとしての庭づくり、外構計画は、そうした考え方の延長線上にあるものです。

photo(左):【菅組本社外構】多種の在来種植物の混植は生物多様性を生み出す (右):【菅組本社外構】1種の植物による構成はシンプルだが生物多様性への貢献度は低い


〔森里海から No.61〕生態系に繋がる庭

菅組で運営するモデルハウス兼宿泊施設の「讃岐緑想」では外構計画(植栽計画とも)をランドスケープデザイナーの田瀬理夫氏にお願いしました。在来種の中でも、地域の植生を考慮した樹種選定により約60種類の草木を選択して配植。うち10数種は、三豊市と観音寺市の野山で採種した種から育苗した、地域のDNAを持つ苗木を植えています。 讃岐緑想の外構工事は、日本生態系協会が創設した環境評価手法「ハビタット評価認証(JHEP)」において最高ランクのAAAを取得し、四国地方において初、また戸建てモデルハウスとして全国初となるJHEP認証事業となりました。(あののぉ58号でも取り上げました)また、 古民家宿「多喜屋」の外回りの植栽はほとんどの草木を地域種苗(三豊・観音寺の種からの苗木)としています。
 
 庭に地域の植物を数本植えるだけで、そこには小さな生態系が形成されます。そしてそれは地域の自然と繋がってエコロジカルネットワークを形成します。個人住宅の庭をはじめ、オフィスや店舗、工場、倉庫に至るまで、さまざまな建築の外回りに小さな生態系をつくること。それは危機的な状況にある生物多様性にたいする小さな貢献です。そしてそれは、これからの街づくりにとって大切な要素でもあると強く感じています。

photo(上):讃岐緑想 (右下):多喜屋のアプローチ (左上):多喜屋の庭 (左下):多喜屋のウッドデッキ周り

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〔大工のはなし〕第22回『小さな小さな大師堂』



通常の約10分の1のサイズの小さな小さな大師堂。これは、今年の4月に高松市に開館した「讃岐おもちゃ美術館」に展示するために、弊社の大工が制作しました。
一番上の露盤宝珠(ろばんほうじゅ)は、山口棟梁が手彫りしたもの。この木は、昨年建て替え工事をさせていただいた、丸亀市にある由緒ある神社を解体した際に出たクスノキです。その他は全て香川県産のヒノキです。
構造や装飾は、通常サイズの大師堂とほとんど変わらないつくり。
細部まで丁寧につくり込んでいる讃岐おもちゃ美術館の小さな小さな大師堂をぜひご覧ください。

■動画:完成するまで


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〔information〕讃岐おもちゃ美術館


〔information〕讃岐おもちゃ美術館

讃岐おもちゃ美術館は、讃岐の伝統工芸と自然の優しさあふれる地域みんなの子育て拠点です。

  館長の中橋さんは、この讃岐おもちゃ美術館の建設を決めた時、香川の子どもたちがふるさとを知り大好きになるように、香川のものづくりの本物の技術や文化を見せたい、伝えたい!と考えたそうです。そして、四国の大切な文化のひとつ『お遍路さん』を伝えるために、『子ども遍路の札所』としてホンモノの大師堂を設置したいと、菅組にご相談くださいました。
 「最初はスタンプラリーのような宝さがし、ワクワク感でいいので、保護者と一緒に『札所巡りって?』と関心を持つきっかけになってほしいと思います」と中橋さん。「大師堂がもつ荘厳さが分かるのでしょうか、そっと近づき扉をのぞいている真剣な表情がなんとも可愛らしいんですよ」と、子どもたちを見つめる中橋さんの眼差しも、お大師様のようでした。
 大人も童心に帰りながら讃岐の奥深い伝統文化を愉しめる、良質なおもちゃ美術館です。

讃岐おもちゃ美術館
住所:〒760-0042 香川県高松市大工町8-1
丸亀町くるりん駐車場1F
営業時間:午前の部:10時~12時半/午後の部:13時半~16時
定休日:木曜   tel:087-884-7171
mail:stm-info@npo-wahaha.net
入館料:大人(中学生以上)900円/子ども(生後6カ月~小学生)700円
    半年間有効の平日パスポートあり
※入館は日時指定予約制です。あらかじめご来館前にご予約ください。


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