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あののぉ vol.60 2022 春号

あののぉ vol.60 2022 春号

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HOUSE REPORT 「住宅地に建つ タテに長い平屋の家」


住宅地に建つ タテに長い平屋の家

住宅地に建つ タテに長い平屋の家

綿雪の舞う2月の寒い日、お引き渡しをして2年のY邸に伺いました。
正面は間口6.37mと一見小さく見えますが、奥に長い平屋の住宅です。
外壁はブラウン系の焼杉板で、落ち着いた佇まい。
庭の植栽がやや寂しい季節ではありますが、石垣のワイヤーにはテイカカズラの蔦が冬色に染まり、美しく彩りを添えていました。


住宅地に建つ タテに長い平屋の家

奥に広がる光の大空間

 玄関を入って扉を開けると、開放感のある吹き抜けのワンフロアが迎えてくれます。ダイニングキッチンからはバーベキューも楽しめる中庭とウッドデッキが広がり、それを囲むように、奥にピットリビングと子どもたちの部屋が2室。階上には広々としたロフトもあります。訪れたのは午後でしたが、中庭から陽の光が無垢の床に差し込み、フロア全体を明るく照らしていました。吸い込まれるように向かったピットリビングではペレットストーブの火が焚かれ、リビング全体をふんわり温かく包んで、愛猫のおもちちゃんがのんびりくつろいでいました。
 リビングのソファーから中庭に目を向けると、大窓のガラス越しに、玄関横の和室で遊んでいる子どもたちの姿が見えました。「子どもの友達には遊びに来てほしいんです。様子が気にはなるけど、同じ部屋でいるよりこの距離感がちょうどいい。」
 リビングの奥には、小さな畳の間。棚に並ぶのは、子育てがきっかけでご主人の趣味となったボードゲームの数々!ここだけでは納まりきらず、ロフトにも並べてあり、その品ぞろえはもはやお店が出来るほどです。奥様が好きなアートや絵画、絵本もあちらこちらに飾られており、聞けば一時期イラストの勉強もされたそう。「ここぞと言う時の熱量がすごいんです、私」とおっしゃったのは奥様ですが、ご夫婦それぞれの好きなことへの情熱を感じる一面でした。
 
photo:明るい光が差し込むピットリビングから、ダイニングや中庭、玄関横の和室を見る


住宅地に建つ タテに長い平屋の家

タテに長い敷地の中で「楽しみつくした」家づくり

 Y様ご夫妻は県外のご出身。仕事の都合で香川に来られ、この家からすぐ近くの賃貸物件で、子育ての初期を過ごされました。庭にはミカンや柿の木がある昔ながらの2階建ての日本家屋で、不便なことも工夫しながら楽しく暮らしていたそう。しかし共働きで忙しい日々の中、もう少し落ち着いて暮らしたいという思いもあり、新居計画を開始。出合ったこの土地は2階建ての建物に囲まれており、かつ南北に長いという難しい土地でした。しかし、前の住居に近いので子どもの転校もなく、近所の方とも顔なじみ。紹介してくれたのが、知り合いの不動産屋さんとのご縁もご夫婦の背中を押し、決断されたそうです。自分たちらしい家のコンセプトを考えた時に思ったのは、自然素材、無垢の木で、朽ちても自然に還ること。小さくてもシンプルで、ホッとする感じの方が自分たちらしい。そして、外に開いている家。地域と関わりながら、友人が遊びに来る家にしたいという方向性がみえたそうです。
 

photo(左):ピットリビングで、愛猫(名前:おもち)と遊ぶ (右):玄関ポーチには、愛用のロードバイクが


住宅地に建つ タテに長い平屋の家

 奥に長い敷地の中で「逆に分かりやすいコンセプトが出来ました」と、ご主人。ご夫妻らしい前向きで朗らかな人柄があったからこそ、この土地で納得のいく家づくりができたのかもしれないと感じました。 
 そんな風に家づくりを振り返ってくださったご夫妻は「楽しみつくしました」とおっしゃるほどで、ご自身で間取り図を描いたり模型を手作りされたりと、熱心に計画に参加。新居計画を始めてからは、建築家・伊礼智氏の家づくりや造園家・荻野寿也氏の庭づくりを好きになり、住宅雑誌や書籍を常に打ち合わせにお持ちになっていたそうです。家が近かったこともあり、建築中の家を子どもたちもよく見に来ていたと言います。「設計士さんも辛抱強くプロの目線で意見を出してくださり、職人さんたちが最後には私たちが描いたことを目の前で形にしてくれて、家づくりを家族みんなで楽しみました」
 平屋にしたのは、前の日本家屋での生活で2階はあまり使わなかったのと、家族みんなが同じ空間でいるのが当たり前だったからだそう。幅が狭いけれど奥行きがあり、開放感のある空間なので、窮屈さは感じないといいます。小さいながら表の庭と中庭、それに裏庭もあるため、住宅に囲まれながら外とのつながりを感じられることも理由かもしれません。

photo(左上):ダイニングからキッチンを見る (左下):小上がりの小さな畳の間。ワークスペースになったり、時には寝床になったりします。 (右):ストーブの火の向こうに見える子どもたちの様子が何ともほほえましい。


住宅地に建つ タテに長い平屋の家

「決めない」自由で大らかな家

 「お互い自由で居場所はそれぞれだけど、どう過ごすのかが分かる。家にいる時間が長かった時もストレスがなかったです。子どもたちも、外出しても家に帰りたがる。家が安心な場所と思ってくれてる点が、本当に良かったなと思います。前の家も素敵だったけど、今の暮らしは使い勝手が良くて、何より快適で安心。まだ2年しか経ってませんが、帰ると『あ~、我が家。』としっくり落ち着きました」と語る奥さまの顔はとても和やかで幸せそう。 
 
 居場所や使い方を決めないという自由な家から、いつか子どもたちも巣立ちます。ご夫妻も家庭菜園を楽しめるようになるかもしれないし、お二人の趣味が別の形になるかもしれません。暮らしの変化を楽しみながら、家族みんなが帰りたくなる大らかな平屋の家です。

photo(左):真上から見た敷地の様子 (右):火を見る暮らしに憧れて設置したペレットストーブ。薪ストーブへの憧れもありましたが、「タイマー機能もあり、煤も少なくメンテナンスが楽で、今の忙しい私たちの暮らしに合っていて、とてもよかったです」と奥様

坂出市Y邸
2019年8月竣工
延床面積:97.08㎡(29.42坪)
構造:平屋建て
設計・施工:(株)菅組

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工事現場紹介「(仮称)高松町プロジェクト」


(仮称)高松町プロジェクト

屋島の麓に建つクリニック

香川県高松市のシンボルの一つ、屋島。その麓にある高松町の閑静な住宅街に一棟のクリニックが今年の春に完成します。

 1階の医院は明るく開放感のある待合いとなっており、診察室・処置室までの動線や、ウイルス感染対策としての専用の待合室など、訪れる方々が安心して診察を受けられるよう計画がされています。また、スタッフの方々への配慮として、使いやすいレイアウトなど医療建築ならではの構造となっています。 


(仮称)高松町プロジェクト

 一方、2階は住居エリアとなっており、子育て真っ盛りな院長ご家族のためのプライベートな空間です。ダイニングは、高い天井が全面ガラス張りのルーフバルコニーまでつながっていて、密集した住宅地の中にあることを感じさせない大空間となっています。
印象的な庇のフレーム、曲線状のダイニングの天井など、外観や内装に使われる素材は、石材、木材などの天然素材もあれば、金属や樹脂、陶器系のものといった様々な材質のものが組み合わされています。そのため、シンプルなデザインの中にも個性が光る建物となっています。

 しかしそれは同時に、難しい工程でもあることを意味します。様々な素材を複雑な形状に組み合わさなければならず、材質を見極めながら設計図通りに納めていかなくてはなりません。さらに、実際の使用感や見た目にも気を遣いながら細かくチェックをし、こまめに修正をしていきます。

photo(左):天井までつづく大きな階段の窓からは、雄大な屋島を望める (右):開放感のある2階の居住部のLDK


(仮称)高松町プロジェクト

 現場では想定外のことが起った時に対応する柔軟な能力と決断力が必要です。また、協力会社の職人さんたちとの連携もとても大切です。年齢やキャリアを越えて、一つの現場を取り仕切る。現場の中でしか身につかないことですが、その経験が蓄積となり今後の自信にもなっていきます。「協力会社の皆さんや、先輩の方々には本当に助けてもらっています。とてもやりがいのある仕事ですし、お施主さんのお子さんとの触れ合いは楽しいひと時です。成長していく間も良いお付き合いができるよう、最善を尽くします」と、現場所長の篠田は話します。

 屋島の麓で、このクリニックが地域の人たちの安心の場となるように、精いっぱいお手伝いさせていただきたいと思います。

photo(左):完成パース (中央):現場で打ち合わせをする監督たち (右):斬新なカタチをした外観


現場監督※右から
篠田陽右(所長)・廣瀬 颯

現場名:(仮称)高松町プロジェクト
場 所:香川県高松市高松町
構 造:鉄骨造
規 模:約590㎡
設計・監理:(株)寒川建築研究所
施 工:(株)菅組

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古木里庫Letter


古木里庫 唯一無二の「一枚板」

唯一無二の「一枚板」

 古材と薪ストーブのお店「古木里庫」には、古民家や蔵などを解体する際に出る古材(梁や柱、建具など)や、古家具、古民具、和食器と共に、多種多様な「一枚板」も展示・販売しています。
 今回は、その豊富な一枚板の中からおすすめの板をご紹介いたします。

①栗(ナグリ加工)
大工が釿(ちょうな)という、のみの首がUの字に曲がったような道具を使い、板材に凹凸をつけ、化粧をしていく加工をナグリ加工といいます。最近では機械でナグリ加工をするようになり、釿を使い大工の感性で仕上げていく技術も少なくなってきています。この板は、家の玄関の式台や、洗面台にも使うことができ、その空間も一味違った奥深い素敵なものとなるのでしょう。(H2000 W300 D40)

②オリーブ(シチリア産)
地図でいうとイタリアの長靴のつま先近くにシチリア島があります。シチリア産オリ-ブの木は、オイルや果実が得られることが有名です。切り倒される事は大変少なく、こうして木材にされる事はごく稀で、若くても樹齢80年以上、中には数百年という樹齢の物が多い古木です。オリ-ブの木は、非常に硬く水はけも良く、またオリ-ブ成分には抗菌性があるので、衛生的でキッチン廻りに人気があるとても貴重な木材です。(H1750 W300 D70)

③屋久杉
現在は屋久杉成木の伐採は禁止されていますが、こちらは禁止前に市場に出回っていた成木の屋久杉の一枚板です。新鮮な水に恵まれながら栄養が乏しい花崗岩の山地に育ち、成長が遅いので、材質が緻密で圧縮、引っ張り、曲げなどの強度も普通の杉に比べると強くなっています。また、樹脂が普通の杉の6倍以上含まれており、腐りにくく虫にも強いそうです。
(H2130 W810 D63)

④ホオノキ
ホオノキは、モクレン科の広葉樹で、広く全国の山林に見られる大木です。葉も大きく丈夫で、香りが良く、殺菌作用もあるので、食べ物を包むのに使われることから、包(ホオ)と名付けられたという説も。木材は加工性の良さから彫刻材、家具材、丸棒、刃物の鞘、まな板、版木、製図板、漆器の木地、下駄の歯など、身近なものによく利用されます。(H2100 W500 D60)

⑤黒柿
実際には「黒柿」という樹木の種類はありません。柿の木が老いていく中で、ごく稀に色素異常をきたし、黒い色素が沈着するそうです。「黒柿」は150年以上経った古木でしか見つかっていないと言われています。とても貴重で珍重される木材であることから、高価なものとして取引されていました。当店にある黒柿は、大きさも適度にあることから、お客様をお迎えする部屋のカウンターなどに使用してはいかがでしょうか?(H1750 W300 D33)


古木里庫 唯一無二の「一枚板」

使用例・・・(左上):「国産赤松」玄関の上り框、巾木  (右上):「モミの木」キッチンの天板  (左下):「栗」洗面カウンター (右下):「地栂(じつが)」キッチンカウンター

古木里庫スタッフのつぶやき

 古木里庫に新入りの一枚板がはいってくる時は、心が躍ります。その中でも特に目を引いたのが、黒柿の一枚板でした。その木の歴史を想像するのも楽しみの一つ。唯一無二の一枚板だからこそ、長く愛着を持てるものになります。
 一枚板は不定期に入荷しています。その際はSNSで紹介してまいりますので、ぜひ実際に目で見て、触れて、お好みの一枚板を探しにお越しください。加工、搬入、設置も承ります。

古木里庫blog更新中!
※掲載しているものは2月末時点のものです。全て一点ものですので、販売済みの場合もございます。詳しくは、お問い合わせください。

一枚板とは・・・一枚板とは、高樹齢で大きく育った1本の丸太から無垢材を切り出し、それを繋ぎ合わせることなく仕上げた、一枚の板・天板のことを呼びます。「世界にたった一つしか存在しない」という価値があり、その木の生きざま全てを感じることもできるのが大きな魅力で、高い人気を誇ります。木の種類によって木目(年輪)や手触りが異なり、テーブルの天板や、カウンターなど、用途によって使い分けることができます。


お問い合わせ先:古材と薪ストーブのお店「古木里庫(こきりこ)」
〒769-1404 香川県三豊市仁尾町仁尾乙264 TEL:0875-82-3837 FAX:0875-82-3844 MAIL:kokiriko@suga-ac.co.jp

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〔森里海から No.60〕垣入(かいにょ)


垣入(かいにょ)

文・写真 菅 徹夫

 富山県の砺波平野(となみへいや)は、散居村(さんきょそん)の地として知られています。散居村とは家一軒一軒が広大な耕地を挟んで点在している集落形態で、日本では他に出雲平野(島根県)や胆沢平野(いさわへいや)(岩手県)などでも見ることができます。この3地区は日本三大散居集落とも呼ばれています。

 散居村の集落はたいてい一軒ごとに、特徴的な屋敷林を持っています。「森里海から」58号で紹介した出雲平野のそれは「築地松(ついいじまつ)」と呼ばれるクロマツで構成されたものでした。砺波平野の屋敷林は「垣入(かいにょ)」と呼ばれ、築地松とは違って様々な樹種で構成されます。砺波散村地域研究所発行の本『砺波平野の屋敷林』によると、樹種はスギが最も多いらしいのですが、構成樹種は高木層44種、中木層76種、低木層80種、小低木層153種と実に豊富なのだそうです。一軒の屋敷林が一つの小さな生態系を形成しているのです。そしてそれらが点在することで、飛び石ビオトープとしての機能が生まれ地域全体へと拡がっていきます。ここでは垣入は地域の生物多様性を保護するという重要な役割も担っているのです。

photo:砺波平野の夕焼け(©(公社)とやま観光推進機構


垣入(かいにょ)

photo(左):砺波平野遠景(屋敷林が点在する様子がよくわかります) (右):平野部で見る屋敷林(一つの屋敷が一つの森になっています)


垣入(かいにょ)

photo(左):屋敷林の配置例(出典:『砺波平野の屋敷林』[発行:砺波散村地域研究所]) (中央):夕陽に染まる水田と屋敷林 (右):グーグルマップで見る砺波平野の散居村


垣入(かいにょ)

 2014年の春、砺波平野を訪問する機会がありました。垣入が点在する散居村の光景はまさに日本の原風景と呼ぶに相応しい見事なものでした。垣入のある一軒のお宅を見せていただくこともできました。長屋門をくぐると、そこにはアズマダチと呼ばれるこの地方の伝統的な建築様式の母屋がありました。立派なお屋敷の中に入ると、なんと使われているほとんどの木材がケヤキです。大きな胴差しで囲まれたこの空間は「枠の内」と呼ばれているそうです。
 
 垣入のある風景、それはアズマダチの建築とともにこの地域でしか見られない独特のものです。全国に没個性な町や風景が増え続けるなか、貴重なこの風景をずっと残して欲しいと切に願います。それぞれの、そこにしかない「地域性」をもった、そんな町が全国に少しずつ増えると良いなと思います。
 
photo(上):長屋門からアズマダチの民家を望む (左下):天井部のケヤキの大きな梁 (右下):総ケヤキの「枠の内」と呼ばれる内部空間

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〔大工のはなし〕第21回『初代ギムネ』



これは「ギムネ」と呼ばれ、明治以降に日本に入ってきたとされるT字形をした木工用の錐です。
木の棒の部分を両手で握り回し、ネジの原理を利用して木に穴をあけます。
現在では、電動ドリルなどの便利な工具を使っているため、手で回すギムネを使う機会は、ほぼなくなりました。
このギムネで木に穴をあけるのは、手間も時間もかかります。ただ、木に穴をあける時の「ギリギリ」という音や、手に伝わる木の感触などの心地よさは、電動工具ではあじわえないものです。

■動画:使っている様子


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〔information〕薪ストーブのメンテナンス


〔information〕薪ストーブのメンテナンス

 寒い冬の間、活躍してくれた薪ストーブ。これからのシーズンオフの間に行っていただきたいのは、煙突掃除や消耗品の点検・交換です。
 シーズン中にたまった煙突内の煤やタールを取り除く作業は、とても大切な作業です。煙道火災の予防や、薪ストーブの燃焼力を保つためにも、年に1回行うことをお勧めしています。また、ガスケット(※)などの消耗品の点検・交換もぜひこの機会に行ってください。
 メンテナンスをしっかりと行うことで、薪ストーブは、末永く活躍してくれます。

※ガラス戸の周りなどにある、気密性や液密性を保たせるために使用される固定用のシール材。


〔information〕薪ストーブのメンテナンス

 古木里庫では、薪ストーブ担当者による煙突掃除を受け付けております。また、古木里庫で薪ストーブを購入されたお客様には、煙突掃除グッズ一式を無料でお貸しいたします。
■煙突掃除:¥33,000(税込)/回 
◆掃除グッズ一式貸し出し:無料 ※OB様限定


〔information〕薪ストーブのメンテナンス

煙突ブラシ:(細めのワイヤーを高密度に編み込んでいるブラシ)を使い、頑固な煤やタールをしっかり除去します。


◆詳しい内容は、古木里庫までお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ:古木里庫  tel:0875-82-3837 mail:kokiriko@suga-ac.co.jp


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