自然と寄り添う暮らし

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 I邸のガレージにならぶビンテージバイク

あののぉ vol.64 2023 春夏合併号

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HOUSE REPORT 「四季の移ろいを感じる、趣味の家」


HOUSE  REPORT  「四季の移ろいを感じる、趣味の家」

 例年よりもずいぶん早く桜の便りが届き、うららかな陽気に包まれたある日。
桜の名所として知られる青ノ山の麓に建つI邸へと向かいました。
市街地からゆるやかに蛇行しながら頂へと続く坂道の桜並木も見ごろを迎え、咲き競う木々の間からは陽射しを受けてキラキラと輝く瀬戸内海を一望することができます。
明媚な眺望を誇るこの地にI邸が完成したのは、昨年の葉桜の頃。
「ようやくこの家で満開の桜を堪能できる」と微笑むご夫妻にお話を伺いました。


HOUSE  REPORT  「四季の移ろいを感じる、趣味の家」

I邸の外観


「住まい」の大切さに気づく

  背後の山の緑に映える真っ白な外壁が印象的なI邸。軒や小庇が生み出す陰影が時の経過とともに形を変え、シンプルなフォルムに立体感を醸し出しています。住居部分からつながるガレージには、ご主人の趣味である愛車がずらり。仕事からは一線を退いて自由な時間を持てるようになった今、日々を楽しんでいる様子が伝わってきます。

 この家を建てるまで、意外にも「自分が家を建てるなんて考えたこともなかった」と話すご主人。以前の住まいは1階と2階が仕事場、3階が住居という環境だったそうで、家には寝るために帰るだけという多忙な生活が何十年も続いていたのだそうです。
 「従業員もお客さんも同じ建物に出入りするので、当時はオンもオフもなかった。家にいても休まらないので、息抜きのために外出するような日々でした」と奥様。

 事業が拡大していくほどに、人は増えていく。さて、このままで良いのかと考えていたご夫妻に、転機が訪れたのは3年ほど前。海を臨む絶景のロケーションに建築中だった息子さんの家が完成し、その暮らしぶりを見たり、家の良さを聞くうちに「住まいの心地良さは人生の豊かさに直結する」と実感。ならばと思い立ち、ついにIさんご夫妻の家づくりが始まりました。


HOUSE  REPORT  「四季の移ろいを感じる、趣味の家」

左≫吹抜のあるリビング 右上≫高台に建つI邸。幹線道路にほど近いがとても静か 右中≫窓から見える桜。時が経つのを忘れるほどの心地良さ 右下≫時間があればいつもここにいる、と話すご主人


感性にフィットする設計

  Iさんご夫妻と当社の出会いは、家を建てるきっかけとなった息子さんの住まいを当社が建てたご縁から。まずは場所探しからはじまり、眺望の良さと利便性の高さを天秤にかけた末に現在の場所にたどり着きました。家については、当初から心地良さや住みやすさを重視していたご夫妻。家にいる時間が一番楽しいと思えるような空間を、何よりも望んでいたと話します。

 その上でご主人からは「趣味に没頭できるガレージが欲しい」、奥様からは「便利な家事動線を」という希望がありました。そこで、お二人が思う「心地良さ」のイメージを共有するために、設計士が何度も打ち合わせを重ねていきました。趣味や嗜好、生活サイクルなどを聞き、希望に沿う設計プランを立てるという流れを繰り返すうち、ご主人にはある気づきがあったのだそうです。

 「デザインについては、当初から設計士さんにおまかせするつもりでいました。でも話せば話すほど僕と似てるんですよ、感性が(笑)。北欧のアンティーク家具が好きなのも、バイクが好きなのも同じ。感覚がずれていないので、設計図が上がってきたときにも、希望がちゃんと形になっていると感じました。自分が良いと感じるものを共感してもらえる設計士さんに出会えたことは、とてもラッキーでしたね」とご主人。


HOUSE  REPORT  「四季の移ろいを感じる、趣味の家」

左≫奥様の仕事部屋はガレージに隣接。ご夫妻が思い思いに過ごす 右≫2階からの眺望を楽しみつつ、ジャズを聴くのが至福の時


HOUSE  REPORT  「四季の移ろいを感じる、趣味の家」

異素材が調和するリビング。吹き抜けやガラスの扉が空間に広がりをもたせている


室内に風が通る道をつくる

  Iさんご夫妻が揃って「期待以上の仕上がりだった」とお気に入りなのが、吹き抜けになったリビング。「木の家は好きだけど、現しになる木のボリュームはあまり多くない方が良い」という希望に対し、設計士が提案したのは「シンプルな白を基調としつつも、構造材の一部を見せることで木のぬくもりを出す」ということでした。そこで薪ストーブやスチール階段といった、それぞれに異なる質感をもつ素材をミックスさせることに。広い空間がすっきりと引き締まり、一体感も生まれました。梁や柱に使った檜の木目があまりにも美しく、初めて見た時にご主人が思わず「本物?」と聞いたというのも印象的なエピソードです。

 空間づくりにおいては、室内の風の流れも意識しながら設計が進められました。南西に面したダイニングスペースにある掃き出し窓は開放口を大きくとり、市街地の眺望や春の桜を楽しめるようにしました。その窓から入る風はダイニングからリビングを通り、続く木製の扉を開ければ玄関や奥さまの事務作業室、そして最終的にはガレージへと抜けていくような間取りとなっています。

 さらにご夫婦それぞれの個室がある2階はロの字に回遊できるようになっており、リビングの吹き抜けに面して窓や扉があります。寒い季節にはその窓や扉を開けておけば薪ストーブの熱が各部屋へと流れ込み、家のどこにいてもじんわりと温かさを感じることができます。

 また奥様ご希望の家事動線については、キッチンからパントリーを通り、脱衣室や浴室へとつながる動線を確保。リビングと壁を隔てた動線なので、急な来客がある時には目隠しにもなると、その使い勝手の良さを気に入っているのだそうです。


HOUSE  REPORT  「四季の移ろいを感じる、趣味の家」

機能的でありつつ、センスの良さを 感じるガレージの内部


趣味とともに暮らしを楽しむ

  ご主人が一番こだわったガレージは、外観は住居と同じ白を基調としつつも、シャッターを開ければ印象が一変。中には海外製クラシックカーやビンテージバイクが所狭しと並び、さながら専門雑誌のグラビアのよう。黒とグレーの壁面に沿って据え付けたメタルラックは、ボルトで高さを調整できるオーダーメイドで、レザージャケットやヘルメット、工具などが機能的に整頓されています。細かなこだわりが各所に詰まっていて、時間を見つけてはここで作業をしているというのも納得です。

 家を建てて1年が経ち、改めて住んでみた感想を聞いてみました。
 「鳥のさえずりに耳を澄ませたり、植栽の手入れをして四季を感じたり。そうした日々の気づきに癒されています。普通に暮らすことでこんなに幸せを感じられるんだって、しみじみと。前は外出ばかりしていたけど、今は外に出たくないくらいに家が好き(笑)」と奥様。

 最近ではプチ同窓会や出張シェフを招いた食事会なども楽しんでいるIさんご夫妻。「親しい人達を呼べる家に住んでいることが嬉しい。これからも楽しみ方がもっと増えそうですね」と笑顔で話す姿が印象的でした。


HOUSE  REPORT  「四季の移ろいを感じる、趣味の家」

photo:左≫ガレージのラックにはライダースジャケットがずらり 右≫北欧のアンティーク家具などでまとめた 室内でくつろぐご夫妻


HOUSE  REPORT  「四季の移ろいを感じる、趣味の家」

photo:上≫見せると隠すがバランスよくデザインされたキッチン  下≫家のどこにいても明るく、快適な室温が保たれている


場所:香川県丸亀市
竣工:2022年5月
工事床面積:173.62㎡(52.60坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:株式会社 菅組

I邸が完成したときの姿


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現場紹介 「ビージェイテクノロジーズ(株)凪瀬工場新築工事」


建物紹介 「ビージェイテクノロジーズ(株)凪瀬工場新築工事」

穏やかな海沿いで建設中


二重折板屋根の「現場成型」

  瀬戸内海に浮かぶ伊吹島が一望できる香川県観音寺市の海沿いで、特殊フィルムを製造する工場棟と、その会社の事務所棟を建設しています。

 今回は、工場棟の屋根が「現場成型」されると聞いて取材してきました。
 現場成型とは、現場に成型機とコイル材(今回はガルバリウム鋼板)を運び入れ、成型加工を行うというものです。トラックでは運搬できない長い屋根の場合に、現場成型されることが多いそうです。
 取材時は、工場棟の2階の屋根材の加工をしていました。今回の屋根は、二重折板屋根(金属屋根材の下弦材と上弦材の間に、断熱材をサンドイッチした工法)です。


建物紹介 「ビージェイテクノロジーズ(株)凪瀬工場新築工事」

photo:上≫上弦材と断熱材の取り付け作業  下≫折板屋根を成型する機械


建物紹介 「ビージェイテクノロジーズ(株)凪瀬工場新築工事」

上≫二重折板屋根の断面  真ん中≫屋上で折板屋根材を受け取る板金屋さんたち。声を掛け合い、作業する  下≫右側がコイル材、左側が成型されたものが出てきた様子


 現場に置かれた成型機で成型された下弦材の折板屋根(厚さ0.8㎜、長さ24m30㎝)を、吊り台に掛けてクレーンで屋上へ運びます。そして、鉄骨母屋に取り付けられたタイトフレームと呼ばれる金具に葺いていきます。

 下弦材を全て葺き終わった後、その上からグラスウールという断熱材を敷きながら、下弦材よりも少し長く成型された上弦材(厚さ0.8㎜、長さ24m70㎝)を葺いていきます。

 屋根材の厚さは0.8㎜と薄いですが、凹凸のある形状に成型することで、一枚の屋根の強度を高めています。また、二重折板にしたことで、より高い断熱性と遮音性があります。

 板金職人さん達と、クレーンを操縦する人との息のあった連携プレーのおかげで無事に工場棟2階の屋根を葺き終わりました。

 できたてホヤホヤの屋根材が葺かれる光景は、長い折板屋根のある大きな建物ならではでした。
2023年8月末の完成を目指し、チーム一丸となって工事が進められています。


建物紹介 「ビージェイテクノロジーズ(株)凪瀬工場新築工事」

現場監督(左から) 大柳 志郎(所長)・松谷 一磨・大西 健人

【ビージェイテクノロジーズ(株)凪瀬工場新築工事の建物概要 】

場所:香川県観音寺市
延床面積:約5,110㎡
構造:鉄骨造2階建て
設計:株式会社 定木建築研究室
施工:株式会社 菅組

現場成型の動画


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〔森里海から No.64〕土管


〔森里海から No.64〕土管

文:菅 徹夫
写真:菅 徹夫、植野 咲子、他

 香川県高松市牟礼町に、今も土管を製造する会社があります。織田陶管(おりたとうかん)有限会社は中四国・近畿圏で唯一、今でも土管を作り続けています。全国でも土管を製造しているのは10社程度だとか。土管は、昔は農業土木の花形だったそうです。今でも農業排水用として使われることがほとんどですが、塩ビ製品に取って代わられ今や〝絶滅危惧種〟です。

 住宅など建築の屋外排水も昭和40年くらいまではほとんどが土管だったようです。塩ビ管にはない集水性、土壌に与える環境負荷の低減、原料が土なので最終的に産業廃棄物にならないなど、土管のメリットはたくさんあります。高度経済成長の時代を経て、大量生産が難しいこと、施工性、価格などの要因から塩ビ製品に取って代わられてきました。しかしながら現在、持続可能性や脱プラスティックが叫ばれる中、建築の材料としても見直されるべき素材、製品ではないかと改めて感じます。土に埋まってしまうと土管なのか塩ビ管なのかもわからなくなりますが、見えない部分の環境性能こそがこれからの時代に評価されることになるのではないでしょうか。


〔森里海から No.64〕土管

photo:左≫ リブ付陶管(織田陶管オリジナルのセラミックストライプ管)1000℃以上の高温で焼成した陶管なので強度が高くリブ付のため3~4割増の排水機能を持つ  右≫ガーデニングやエクステリアとしての利用も


〔森里海から No.64〕土管

住宅の排水に土管を使用した例(土管埋設工事) 


 我が社でも20年以上前から時々、実験的に住宅の雨水排水に織田陶管製の土管(陶管)を 使用しています。コンセプト住宅「讃岐舎」では、ある時期からこの土管による雨水排水を標準仕様としました。建築材料における塩ビ製品の見直しは、多岐にわたって検討すべき重要事項だと思います。排水管を全て土管にすることは現実的ではありませんが、塩ビ製品へのアンチテーゼとして重要な一つのメッセージになればと思っています。 


〔森里海から No.64〕土管

製造工場の様子


 2021年4月に我が社が掲げた「地球が少しずつでも再生される建築をつくる」というサスティナブル・ビジョンを実現するためには、建築材料の大幅な見直しは必要不可欠です。もちろん我が社だけで出来るものではありません。建材メーカーなどと連携して、サプライチェーンの大きなうねりをつくっていく必要があります。持続可能性に本気で向き合おうとする今、建築のつくり方が根本から問われています 。
 120年にわたって土管を作り続けている牟礼町の会社から「サスティナビリティ」に対する大きな示唆と勇気をもらっています。「価値の基準」がすこしずつ変わりつつあるし、もっと積極的に変えていくべきだ。一本の土管から、そんな学びを感じ取っています

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〔大工のはなし〕第25回『ケレン棒で檜(ひのき)の皮を剥ぐ』



 今年の夏、父母ヶ浜のすぐ近くにオープンする店舗の大黒柱として、香川県仲多度郡まんのう町の山で樹齢約100年の檜を伐採しました。
 その檜から柱となる角材をとった残り(背板)を利用してカウンターにします。
まずは、背板の樹皮を柄の長いケレン棒(※)で剥いでいきます。
樹皮と辺材との間に刃を入れて、少しずつ剥いでいくと、光が反射するほど美しい辺材の姿が現れました。
この木が、カウンターとなって生まれ変わる日が楽しみです。

※ケレン棒:壁材や床材の剥がし作業などに使用するヘラ状の道具のこと。

伐採した檜の木の皮をケレン棒で剥ぐ様子


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〔information〕菅組の大工がつくった椅子


菅組の大工がつくった椅子

菅組の大工がつくった椅子


 菅組の大工がつくった椅子をご紹介します。
 カウンターチェアと、スツールの2種類があり、肥松をつかっています。肥松は、樹齢数百年の老松の幹の中心部分のことです。年月を経るほどにより艶が出て、美しい赤茶色に変わっていきます。

【カウンターチェア】
¥38,000(税込)/1脚
現品限り数:2脚
素材:肥松

【スツール】
¥10,000(税込)/1脚
現品限り数:3脚
素材:肥松

≪お問い合わせ≫
古材と薪ストーブのお店「古木里庫(こきりこ)」
香川県三豊市仁尾町仁尾乙264 
tel:0875-82-3837
mail:kokiriko@suga-ac.co.jp


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