自然と寄り添う暮らし

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K邸の妻壁の家紋と、讃岐の鏝絵(こてえ)

あののぉ vol.66 2023 冬号

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HOUSE REPORT 「歳月を経て味わいを増す檜の家」


HOUSE  REPORT  「歳月を経て味わいを増す檜の家」

 海にも山にも近く、周囲には田畑が広がるのんびりとした風景。今回はこの町で暮らすAさんご一家を訪ねました。
当初は家を建てるかどうか悩んでいたというご夫妻の背中を押したのは、他でもない息子さんの存在。ダイナミックに遊ぶその姿を見て「部屋の広さも音も気にせず、のびのびと成長してほしい」という思いが募り、家づくりがスタートしました。
何度も打ち合わせを重ね、ご夫妻の希望と設計士の提案をうまく融合して完成したのは、ご夫妻の人柄を映したような明るく温もりのある家でした。


HOUSE  REPORT  「歳月を経て味わいを増す檜の家」

大きな吹き抜けのあるリビング。正面にあるのがお気に入りのワークスペース。障子の意匠が、隣の和室との統一感を出している


家の完成は暮らしのはじまり

 のどかな雰囲気を醸すエリアの中、住宅街の一角に建つA邸。周りに高い建物がないため空が広く、山の木々の移ろいや畑で育つ作物に、四季折々の変化を感じることができる自然に恵まれた環境です。その風景に溶け込むようなたたずまいのお宅に一歩足を踏み入れると、かすかに感じる檜の香り。「暮らし始めて3年経った今も、この香りに癒されるんですよ」と話すご家族の笑顔に、この家で過ごす日々が充実したものであることがわかります。
 A邸が完成したのは令和2年。しかしAさんご夫妻が家づくりを考え始めたのは、そこからさらに7~8年ほどさかのぼります。共働きで多忙なお二人にとって、家を持つことはお互いの人生の大きな夢。「いつかは」と思いながら、その希望は長く温めていたのだそうです。そしてその思いは、息子さんの誕生によってどんどん大きくなったと話します。
 「夫婦二人なら、まだしばらくはマンション暮らしでも良いかなと思っていたんです。でも息子を授かってその成長を目にするうちに、もっとのびのびと自由に育てたいという気持ちが強くなりました」と奥様。
 当初は「木の家に住みたい」という漠然とした希望を持って、見学会や展示場などをいくつも回ったというAさんご夫妻。複数の会社の施工例を回り、見学を重ねるうちに、自分たちが暮らしたいと思う家の条件が徐々に具体化していきました。
 「いろんな家を見せてもらうなかで、家の中にいても木のぬくもりを感じられるような空間に住みたいと強く思うようになりました。疲れて帰宅したときでも、入ればホッとする、そんな家です」とご主人。そして菅組の家を見学したときに、ご夫妻が思い描いた理想に近いと感じ、さらにさまざまな見学会に足を運んだ後、ついに家づくりを決心したのだそうです。
 「でも、本当の決め手は菅組の営業担当のSさんだったかもしれません。木造建築のメリットとデメリットを隠すことなく教えてくれて、要所要所で自分だったらこうします、と意見を聞くこともできました。それは自社が建てる家に自信があるということの証だと思いますし、とても誠実なこと。一生の買い物だからこそ、そういう人がいる会社で建てたいと思ったんです」と奥様。
 その言葉に「家は建てて終わりではなく、新たな暮らしの始まり。定期的なメンテナンスでこれからもお付き合いが続きますから、信頼関係はとても大事ですよね」と、ご主人も大きく頷きます。


HOUSE  REPORT  「歳月を経て味わいを増す檜の家」

左≫玄関の奥には大容量のシューズクローク。 ホール脇には手洗いボウルも設置 右≫シックな色合いの外観。庭があることで「住空間が豊かになった」と奥様


家づくりで得た思いがけないプレゼント

 Aさんご夫妻が設計士と打ち合わせを重ねてたどり着いたのは、吹き抜けのあるリビングを中心にした真壁の家。現しの梁や柱、床には、存在感たっぷりの香川県産の檜を使用。壁には珪藻土を塗り、天井には和紙を貼るなど、家全体が呼吸しているような気持ちの良い自然素材の住まいです。
「県産檜を使うのも、そのために大黒柱伐採ツアーに参加したのも、すべて菅組さんからの提案でした。身をまかせる気分で採用した県産檜の家は、想像以上に気持ちが良いですし、大黒柱伐採ツアーで我が家の柱を切り出すという経験をしたことで、家への愛着もぐんと増しました。思いがけないプレゼントをもらったような気分です」と奥様。
「プロの意見をどんどん取り入れたい」と話すご夫妻の大らかさで、設計士のアイデアは他にも採用されました。たとえば、奥様が重視した豊富な収納スペースは、設計士が動線も考えながら家の各所に機能的に配置。どこにあれば暮らしが便利になるかを考えられた設えは、実際に重宝しているのだそうです。
 またリビングに設置した広いワーキングデスクも、使い勝手を考えた高さや棚の設置を提案。今では家族3人がフル活用しているというこのスペースは、「作ってよかった場所」のベスト3に入ります。


HOUSE  REPORT  「歳月を経て味わいを増す檜の家」

家の中心には、伐採した檜の大黒柱が通し柱として据わっている


HOUSE  REPORT  「歳月を経て味わいを増す檜の家」

左上≫階段を上がった先の小屋裏は、息子さんのお気に入りの隠れ家 左下≫2階のホールにもワークスペース。「オンライン会議のときに重宝します」 右≫玄関脇の植栽。和と洋が融合した落ち着いた雰囲気


どこにいても心地良い住まい
 菅組からの提案でAさんご夫妻が採用したものが、さらにもう一つ。それがOMソーラーです。家の中心となる位置に備えたダクトは、目隠しも兼ねて収納スペースにビルトイン。部屋の間仕切りを最小限にすることで、家をまるごと1つの空間のように温めてくれます。初冬の寒い日でも、晴れてさえいれば家中がポカポカ温かいのだとか。
「リビングだけでなく、脱衣所もトイレも、2階も。温度差がないのが良いですね」とご主人。年中快適でさらに電気代も経済的。「導入して正解だった」と話します。
 暮らし始めて3年。「これからも家族みんなが楽しく過ごせたら」とAさんご夫妻。思い描くのは、味わい深い色に変化する檜のように、歳月を経てさらに充実した家族の姿。そんな明るい未来を予感させる、素敵な笑顔が印象的でした。


HOUSE  REPORT  「歳月を経て味わいを増す檜の家」

屋根の上にはOMソーラーのパネル

場所:香川県坂出市林田町
竣工:2020年7月
延床面積:132.62㎡(40.19坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:株式会社 菅組

A邸のインタビュー動画


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現場紹介 「Park KSB Annex新築工事」


現場紹介 「Park KSB Annex新築工事」

建物を真上から見た様子


三角形と六角形の「レシプロカル構造」でつくる

  香川県高松市上之町に位置する(株)瀬戸内海放送 高松本社。そのすぐそばに建設中の「Park KSB Annex」の現場を紹介します。こちらの施設は2024年春にオープン予定の多目的施設です。
 特徴は、屋根の三角形と六角形の構造部にあります。これは「レシプロカル構造」と呼ばれる構造を採用しています。レシプロカル構造とは、部材同士が互いに支え合うことにより、立体的に釣り合いを保つ構造のことです。これは接合部に多くの部材が集中することを避け、全ての部材が圧縮力のみで相互支持して成立しています。
 近年では「グラスホッパー」と呼ばれる3Dモデリングソフトのプラグインによって、アルゴリズムを用いてプログラムを組み、今回のような複雑な形状の精密なプレカットも可能になりました。数多くの部材は、大工の手で一本一本組みます。最新の技術と人の手によって、この美しい構造美が生まれるのです。
 現場監督たちは、複雑な工程を日々こなしながら完成に向けて作業しています。
 建物が完成し室内から天井を見上げると、この三角形と六角形の形が見えるとのこと。完成が待ち遠しいです。


現場紹介 「Park KSB Annex新築工事」

左≫建設中の建物の奥に「2022年度 グッドデザイン賞」を受賞した(株)瀬戸内海放送 高松本社が佇む 右≫レシプロカル構造で組まれた屋根の構造部の素材は、耐朽性や強度の高い欧州赤松の集成材


現場紹介 「Park KSB Annex新築工事」

左≫木造建築の部材を接合するためのコネクタ「ストローグ金物」は、木造建築の自由度と美しさを高めるとともに、耐震性や施工性にも優れている 右≫菅組の大工が掛矢で一本一本打ち込んでいく


現場紹介 「Park KSB Annex新築工事」

現場監督(左から) 佐倉 光(所長)・佐野 潤也 ・廣瀬 颯

【Park KSB Annex新築工事の建物概要 】

工事名:Park KSB Annex新築工事
場所:香川県高松市上之町
構造:木造2階建て
延床面積:446㎡(135.15坪)
設計・監理:株式会社 UID
施工:株式会社 菅組

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〔大工のはなし〕第27回『大串半島活性化施設をつくる』


〔大工のはなし〕第27回『大串半島活性化施設をつくる』

菅組大工(左から):山口 宏己 山口 剛生 田岡 諒大 真鍋 清誓 山口 亮二    現場監督(上):安藤 宏樹(所長) (下):堀川 涼

 自然豊かな美しい景色が360度広がる香川県さぬき市の大串半島。香川県を代表する絶景スポットのひとつです。
 この地に2024年春、休憩場所を兼ねた飲食施設が完成します。設計は、四国霊場31番札所・竹林寺(高知市)の納骨堂を設計し、平成28年の日本建築学会賞(作品)を受賞した建築家の堀部安嗣さんです。
 菅組の大工たちは、一週間かけて建物の骨格となる建て方を行いました。現場のステージで上り梁や束などを地組みして取り付ける工程は、大工の腕の見せ所です。たくさんの部材が全て合うように、鑿や鉋で微調整しながら部材と部材を組んでいきました。
 自然と景観を守りつつ、たくさんの人々が集える場所になるようにとの思いが込められた建物。この建物に関わるたくさんの人の思いをカタチにするため、完成に向けて精一杯取り組んでいきます。


〔大工のはなし〕第27回『大串半島活性化施設をつくる』

瀬戸内海に浮かぶ島々や、大型船、小型船が多く行き交う姿を一望できる美しい大串半島で、建物が上棟した時の様子


 店内の中心には、本誌でも紹介している大きな八角形の檜の大黒柱が据わり、背割りの部分には埋め木と千切り模様が施されています。カウンターとベンチは、大黒柱の端材を使って菅組の大工がつくりました。中央の大きなテーブルは、樹齢約400年の徳島県産杉の一枚板です。これは、古材を保管・販売している古木里庫に保管されていたものです。こちらも菅組の大工が手作業で丁寧に磨き、修復しました。建物に用いた草屋根は、夏の暑い時期の強い日差しをやわらげる遮熱効果があります。
 訪れる人々や、小さな生物たちにとって、このお店が憩いの場となっていくことと思います。


〔大工のはなし〕第27回『大串半島活性化施設をつくる』

左≫建物脇のステージで、菅組の大工たちが上り梁や束を地組みする。構造部の素材は、ほぼ奈良県の吉野杉 右≫建築家 堀部安嗣さんによる現場監理の様子


〔大工のはなし〕第27回『大串半島活性化施設をつくる』

左≫ステージで組んだ合掌をクレーンで持ち上げて、慎重に取り付けていく 右≫(有)堀部安嗣建築設計事務所が製作した50分の1の建物の構造模型


建て方の作業動画


【大串半島活性化施設の建物概要 】

工事名:令和4年度大串半島活性化施設 建設工事
場所:香川県さぬき市小田
構造:木造 地下1階、地上1階建て
延床面積:198.74㎡(60.12坪)
設計・監理:有限会社 堀部安嗣建築設計事務所
施工:株式会社 菅組

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〔森里海から No.66〕水塚(みつか)と揚舟(あげぶね)


〔森里海から No.66〕水塚(みつか)と揚舟(あげぶね)

左≫水塚(坂田家) 右上≫水塚(役所の人に偶然案内してもらった小屋) 右下≫軒下に吊るされた揚舟


文・写真:菅 徹夫

 日本には、洪水から人命や家畜、財産、食料などを守るために母屋より高く土盛した上に納屋や土蔵を建てた塚がさまざまな地域に点在しています。土盛の高さは川の堤防よりも高くするのが一般的で、こういった建築形式は日本各地の洪水常襲地域に広く共通して見られます。地域によって呼び方はさまざまで、主に荒川流域や利根川流域のものを「水塚(みつか)」と呼ぶようです。他に木曽川では「水屋」、淀川では「段蔵(段倉)」、信濃川では「水倉」などと呼ばれているそうです。
 今回は利根川と渡良瀬川(わたらせがわ)合流域(群馬県板倉町)の水場景観を見学する機会に恵まれました。ここは国の重要文化的景観にも指定されている場所で、いくつかの水塚が狭いエリアに点在しています。生活の知恵や生きるための工夫が生んだ小屋は、災害時の避難場所としての機能を果たすだけでなく地域特有の風景を形成しています。暮らしの必然が生んだ小さな小屋が、この場所独自の地域性を生み出しているのです。


〔森里海から No.66〕水塚(みつか)と揚舟(あげぶね)

洪水の時の水塚と揚舟


 また、洪水時に食糧などを運搬するための移動を目的として蔵などに吊してあるのが「揚舟(あげぶね)」と呼ばれる小さな木造船です。船底は浅く軽量化されており、米3俵と大人2 人が乗れるくらいの積載能力があったと言われています。揚舟という名前は、普段は家の軒下に吊り下げられていること、つまり陸に揚がっていることに由来しています。揚舟が軒下に吊された様子は、水塚の小屋とともに地域の風景を構成する要素の一つになっています。
 各地域に残る独特の土着建築やそれらがつくりだす多様な風景は、地域の財産であるとともに豊かさの象徴でもあるように思います。全国各地にその地域独特の多様な風景がある・・・その風景を味わうことは旅の醍醐味の一つでもあります。新しい時代の「豊かさの指標」が求められている現在、「地域の風景の多様性」もその一つとして評価されても良いように思う今日この頃です。


〔森里海から No.66〕水塚(みつか)と揚舟(あげぶね)

左≫水塚(役所の人に偶然案内してもらった小屋) 右上≫水塚の内部 (俵は水に浸かっても良いものから、下から上へと順に積み上げられる) 右下≫川の土手沿いに作られた水塚(地盤は堤防と同じ高さ)


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「仲南の森 大黒柱伐採ツアー」レポート


「仲南の森 大黒柱伐採ツアー」レポート

伐採した木を囲んで、みんなで記念撮影


 2023年11月11日に、「大黒柱伐採ツアー」を開催いたしました。
 大黒柱伐採ツアーとは、香川県仲多度郡まんのう町の林業家・豊田 均さんの山の木から、実際に建てる家や店舗の大黒柱を住まい手さんの見守る目の前で伐採する様子を見学するというものです。
 2002年から毎年秋に開催し、今回で22回目となります。3年ぶりに一般の方からの見学希望者を募り、たくさんの方にご参加いただきました。
 樹齢約65年の目の詰まった美しい檜が伐採され、来年には家の大黒柱となって生まれ変わります。
 また今回は、2015年の伐採ツアーで大黒柱を伐採したご家族も参加してくださり、家を建てた後もこの山と繫がり続けてくれていることを、大変うれしく思いました。
 現在77歳の豊田さん。年齢を感じさせない力強い動きや、熟練の技で私たちを魅了させてくれます。
 これからも、近くの山の木で建物をつくる活動を続けていきます。


「仲南の森 大黒柱伐採ツアー」レポート

左≫伐採の瞬間 右≫今回伐採された住まい手さん。まん丸の切り株とともに


「仲南の森 大黒柱伐採ツアー」レポート

左≫お昼ごはんは、地の野菜などを使った栄養満点のオリジナル弁当と、菅組のOBさんが営んでいる善通寺市の「あきこきっちん」さんがつくった三豊モリンガ豆乳クリームパン 右≫林業家 豊田さんに山のことや林業のことなどを聞いてみる座談会の様子


*菅組のOBさん『あきこきっちん』さんのInstagram

大黒柱伐採ツアー2023のレポート動画


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〔information〕「社会貢献の森」レポート


「社会貢献の森」レポート

 心地の良い小春日和となった11月23日。香川県綾川町の樫原(かしはら)国有林で森林整備活動「社会貢献の森(菅組感謝の森)」を行いました。初めての参加者も含めて社員16名と林業家の豊田さんとで、29本の檜を約3時間で伐採しました。
 活動は一年に1~2回行われますが、春は悪天候のため作業ができなかった分今回は、木が太くなり、木々も込み合い倒れにくく、大変苦労いたしました。汗をかきながら諸先輩方の指導のもと、様々な技術を学びながら作業に取り組みました。
 間伐を行い健全な森林を保つことは、水の供給、災害予防、地球温暖化対策、生態系保護などにつながります。これからも建設業に関わる者として環境保全への意識向上を図りながら、森林の環境、木の成長から建築までの繋がりを学び、「木とともに」生長する企業としての自覚を深めたいと思います。

*菅組は平成24年に林野庁(四国森林管理局 香川森林管理事務所)と「社会貢献の森」という森林整備活動に関する協定を締結して、以来、毎年国有林の間伐や枝打ちなどの森林整備活動を行っています。

◇ 位 置:香川県綾歌郡綾川町枌所東樫原国有林42林班と8小班
◇ 面 積:2.39ha
◇ 林 況:昭和60年植栽のヒノキ人工林
◇ 主な活動内容:枝打ち、間伐等


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