あののぉ vol.69 2024 秋号
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HOUSE REPORT 「暮らしを鮮やかに彩る 薪ストーブのある暮らし」
青々とした田園と、家々が織りなすのどかな風景のなか、10年ほど前に家を建てたAさん一家。周囲の木々がぐんぐん枝を伸ばすように、小さかった子どもたちもそれぞれが巣立つ年頃に成長し、暮らし方も変化してきました。
しかしどんな時でも、家の中心にあるのは薪ストーブでした。内と外で人の輪をつなげるきっかけとなり、暮らしを鮮やかに彩った薪ストーブは、一家にとってなくてはならないものとなりました。
周囲になじむ堂々とした佇まい
香川県三豊市。車通りの多い国道から逸れ、両側に家々が立ち並ぶ細い路地を進むと、田畑に囲まれた一軒の家が見えてきます。日本瓦の重厚感と焼杉板が生み出す味わい深さは周囲の緑に溶け込み、この地にどっしりと根を下ろしたことを想起させるような佇まいを感じます。5台はゆうに停められる広々とした駐車場を抜け、玄関にたどり着くと気づくのは、ベンガラ色の鮮やかなアクセント。ポーチの庇の下や玄関柱の差し色が、訪れる人を明るく迎えてくれているかのようです。
Aさん一家が暮らすこの地域は、周辺5つの小学校が統合新設される小学校が近くにできることもあり、注目を集めている人気のエリアです。奥様の実家が近くにあったこともあって選んだ場所ですが、家を建てることを考え始めた10数年前でも「良い場所が見つかるまで、2年くらいはかかりました」とその当時を振り返ります。
しかし、苦労して探した甲斐があって出会ったのは、150坪ほどの広々とした土地。そこから理想の住まいづくりが始まりました。
決め手は人と人の信頼関係
家づくりで一番こだわったことについて質問すると「薪ストーブ。それに焼杉の外壁ですね」とAさん。ご自身の実家がまさに焼杉板の外観だったそうで、落ち着いた雰囲気が好きだというのがその理由だとか。薪ストーブについては以前から興味があり、「古木里庫」の存在も知っていたのだそう。
「ただ菅組さんがやっている店ということは、知らなかったんですよ。薪ストーブのある家、しかも焼杉の外壁も施工できる会社を調べたら菅組さんにたどり着き、その時に初めて知りました」とにっこり。
展示場にも足を運び、ハウスメーカーを回ったAさん一家。薪ストーブや焼杉板の外壁など、譲れないこだわりは守りつつも、しかし最終的に菅組に決めたのは他の理由からだったそうです。
「やはり家づくりに関わってくださる方々との関係が大切ですよね。こまめなやり取りの中、希望を伝えればこちらの感覚に寄り添った的確なアドバイスをもらえる。そういう人間関係が菅組さんとなら築けると思ったんです」とAさん。竣工から10年経った今も、その関係性は続いていると話します。
家族が自然とリビングに集まる設計
家を建てた当時は、ご夫妻と2人のお子さん、さらに奥様の母と祖母の6人で暮らしていたAさん一家。みんなが自然と集まれるようにと、リビングを文字通り生活の中心に据え、各々の部屋が面した間取りにしました。扉を開け放せば、夏の暑い日にはリビングのエアコンの冷気が他の部屋にも行き届き、寒い冬には薪ストーブのぬくもりが家全体を包みます。
「リビングとの区切りは扉一つ。子どもがまだ小さかった時には、どこにいても目が行き届くので安心でした」と奥様。
リビングを通じてどの部屋とも行き来しやすいA邸。しかし収納する場所が…という課題は、中2階をつくることで解消しました。高さ140㎝ほどのロフトと隣接する小部屋は、収納力もバツグン。おかげで1階はスッキリと片付くのだそうです。
暮らしを快適にする間取りの工夫は他にもあります。洗濯機から日当たりのいいリビング南側の物干し場までの動線は、キッチンを抜けて一直線。さらに家の東西南北に開口部があるため、真夏や真冬を除けば、リビングを心地良い風が抜けます。
薪ストーブで繋がる人との輪
A邸の庭の一角には、立派な薪置き場があります。Aさん自らがつくったもので、約1年分の薪を保管できるのだとか。
「薪用の木は、山を所有している知人に木を切らせてもらっています。うちも助かりますが、知人にも間伐になると喜んでもらっています。切った木は古木里庫で薪割り機を借りて、ちょうどいいサイズにしているんです。古木里庫では薪ストーブのメンテナンス道具も借りていますが、家を建てた後にも自然とやりとりが続くので、困った時に相談しやすいのもいいですね」
薪ストーブがあることで、かかる手間をはるかにしのぐ楽しさがあると話すAさん。山では知人とバーベキューを楽しみ、古木里庫ではメンテナンスの話題で盛り上がることも。もはや生活の一部となったそんなやりとりが楽しいのだそうです。にこやかに話す様子からは、充実した暮らしぶりが伝わってきました。
場所:香川県三豊市豊中町
竣工:2015年9月
延べ床面積:152.27㎡(46.14坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:株式会社 菅組
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現場紹介 「宝田電産 株式会社 本社工場移転 新築工事」
大型工場の迫力ある鉄骨の建て方 長さ25mのダブルレール形天井クレーン
香川県三豊市山本町で、受変電設備などを製作している宝田電産株式会社の本社工場の移転にともない、工場棟と事務所棟を建設しています。今回、工場棟のH形鋼の鉄骨の建て方と、天井クレーンの取り付けの様子をご紹介します。
工場棟の大きさは、東西に100m、南北に50mという大きな建物になります。大きいもので重さ約5tあるH形鋼の柱が54本(※)建ちました。鉄骨を固定する部材も大きく数も多いため、建った姿は圧巻です。さらに、鉄骨が8割ほど進んだ時点で、長さが25mあるダブルレール形天井クレーンが3本取り付けられました。シングルレール形よりも大容量で、ロングスパンに対応できるダブルレール形の大型の天井クレーンは、現場で組み立てられ、慎重に上架に取り付けられました。
現場監督は、日々広大な現場を何度も巡回し、多くの職人さんと連携を図りながら工事を進めています。
※ 800×300が42本、300×300が12本
【建築概要 】
工事名:宝田電産 株式会社 本社工場移転 新築工事
場所:香川県三豊市山本町
構造:鉄骨造2階建て
延床面積:約7,360㎡(約2,230坪)〈工場棟+事務所棟〉
設計・施工:株式会社 菅組
タイムラプス動画
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お店紹介「日本料理店 『圓(えん)』」
香川県JR丸亀駅からすぐの富屋町商店街の一角にあった洋品店の建物を改修し、2024年5月に日本料理店『圓(えん)』がオープンしました。
店主の髙畠克員さんは、創業450年余りの京都の老舗料亭『瓢亭(ひょうてい)』で、18歳から27年間働き、副料理長も務められた生粋の名料理人です。「50歳までには自分の店をもちたかった」と話す髙畠さんは今年で50歳。生まれ育った丸亀市に戻りお店を開業するにあたり、まず相談されたのが髙畠さんのご親戚でもあり、兄のように慕っていた菅組の常務でした。常務からのアドバイスや、菅組の設計士のデザイン力、たしかな施工力で洗練されたお店に改修されました。
晴れてお店を持つという念願の夢をかなえた髙畠さん。一品一品料理をつくる姿がカウンター越しに見え、まるでショーを見ているかのよう。「お客様の反応を直に感じられる嬉しさがあります。目の前でつくることで安心感や特別感をあじわっていただきたい。結婚記念日や誕生日など、大切な日にこの店を選んで来てくれるお客様も多いです。このお店を通して、いろんな方とのご縁を大切にしていきたいです」と物腰柔らかく笑顔で語ってくれた髙畠さんの挑戦はこれからも続きます。
店名:圓(えん)
場所:香川県丸亀市富屋町28-1 JR丸亀駅から徒歩3分
電話:0877-83-1004(※受付は電話のみ)
予約受付時間:10時~18時(※完全予約制)※お料理の提供は基本18時半~
料金:1コースのみ(8品)15,000円(税抜・サービス料別)
席数:10席
定休:月曜日
駐車:コインパーキングへ
【コース内容】先付、向付(お造り)、お椀、八寸、炊き合わせ、焼き物、ご飯、果物
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〔森里海から No.69〕うるか(鱁鮧、潤香、湿香)
文・写真:菅 徹夫
「うるか」というものにはじめて出合ったのは、かれこれ20年近く前のこと。島根県の柿木村(かきのきむら)というところで行われた「森里海連環学 かきのき村塾」に参加したとき、ある人に勧められてお土産に購入したのが始まりでした。これが珍味好きにはたまらないおいしさで、一瞬にしてファンになったのです。瓶詰めのラベルにはこう記してありました。「高津川(たかつがわ)の清流に育った天然鮎の『はらわた』を塩だけで、じっくりねかせました。苦み・渋み・旨味の三拍子揃った『本物のうるか』を是非ご賞味下さい。(天然うるかですので砂の混入があります。)」後日知ることになるのですが、日本でも一、二を争うおいしさと言われる高津川の天然鮎、その鮎を使ったうるかはまさに絶品でありました。
「うるか」とは鮎の塩辛のことで、内臓でつくるものを「苦(にが)うるか」、新鮮な身でつくるものを「身(み)うるか」、落ち鮎の真子・白子でつくるものを「子(こ)うるか」と呼ぶようです。なかでも本来の「うるか」は「苦うるか」で、なんとも言えない通好みの風味を醸し出します。
鮎は生息する川によって味がかなり異なる魚だと思います。全国の鮎を食べ歩いたわけではありませんが、いくつかの代表的な鮎を現地で食した感想です。天然鮎と放流鮎でも味はもちろん異なりますが、同じ天然鮎でも川によってその味は異なるように思います。うるかも同様で、地域(河川)によって味が異なりますし、製法も様々です。うるかファンとしていくつかうるかを食しましたが、今のところ高津川のものを超えるうるかは現れておりません。まだまだたくさんのうるかが日本にはあると思います。新たな出合いを楽しみにしたいですね。
鮎が美味しい川ほどその自然度は高く、清流と言えると思います。うるかは自然度のバロメーターでもあるのです。日本の食文化の多様性・奥深さの一つの象徴としての「うるか」。これからもずっと、それぞれの地域の河川流域に有り続けてほしいと願います。
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〔大工のはなし〕第30回『建築家 伊礼智とともに』
建築家・伊礼智とつくるi-worksモデルハウスづくりが始動しました。炎天下の中、7名の大工さんによって建て方工事が行われました。
三角形の敷地内に、36坪の2階建ての建物と、小さな小屋の2棟を建てます。構造材は、優れた強度をもつ美しい和歌山県の紀州材の杉や桧を使用しています。
家づくりの中で、一番長く現場で働くのが大工さんです。そのため、大工さんが担う役割も大きくなります。重要な作業が続きますが、これまで培われた技術や知恵を発揮しながら、工事は順調に進められています。
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〔information〕i-works project 建築家・伊礼 智とつくるモデルハウス i-works 5.0菅組モデル 上棟式
2024年7月8日に、菅組の新しいモデルハウスとなる「i-works5.0菅 組モデル」の上棟式を執り行いました。i-worksプロジェクトは、建築家・伊礼智が手がけてきた注文住宅群を元に、多くの人に住まいの心地よさを提供することを目指しながら住まいを丸ごと「標準化」したプロジェクトです。現在では1.0から5.0の5つの基本プランがあり、今回は5.0のプランに、さらに讃岐らしさ・菅組らしさを取り入れた設計プランになっており、香川県では初のi-worksの建物です。
上棟式当日には、伊礼さんをはじめ、伊礼設計室のスタッフの方や、i-worksプロジェクト事務局長さんにもご参列いただきました。伊礼さんたちは、建て方工事を終えたばかりの建物を隅々まで確認し、菅組の現場監督や設計士と打ち合わせを行いました。建物の完成は年末の予定。今からとても待ち遠しいです。