自然と寄り添う暮らし

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あののぉ vol.59 2021 秋・冬 合併号

あののぉ vol.59 2021 秋・冬 合併号

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HOUSE REPORT 「家族をほがらかに包む そとん壁の家」



家族をほがらかに包む そとん壁の家

高松市の郊外。河川敷を下りると、サッカーや野球の練習をする子供たち、ランニングやウォーキングをする人たちで、朝から活気がありました。
一歩入れば静かな住宅地で、水路から聞こえる麗しい水音と一緒に、はつらつとした子供の声がどこかしらから聞こえるHさんのお宅を訪れました。



目指したのは、心地いい家づくり

整った室内。家にあるものは、ご夫婦でこだわって選んだ好きなものばかり。丸テーブルや椅子などの家具と、ご主人が選んだ絵、奥さまが好きなドライフラワーなどが白い室内をさりげなく彩ります。お互いの好きなものは似ていて、選ぶものの基準は「この家に似合うもの」。

 奥さまの育児休暇の間に家を建てる計画をされたHさんご夫妻。この土地にたどり着くまでは紆余曲折があり、少し心が折れかけた時もありましたが、それでも粘り強く土地を探し、いくつかの住宅メーカーを回ったそうです。「その頃から住宅やインテリアに興味がわき、いろいろな本で勉強しました」とご主人。家づくりの参考に購入したのは、建築家・伊礼智さんの本『小さな家 70のレシピ』。伊礼さんの設計教室で3度最優秀賞を受賞したことのある弊社設計スタッフが設計した住宅の見学会に訪れたことがきっかけとなり、理想の家づくりが始まりました。
 「スタッフさんたちは私たちの意見を取り入れながら、実際の暮らしを想定したプロの視点でアドバイスをしてくださり、深く納得しながらプラン作りが出来ました。本当に心地いいお家で、両親や友人にも褒めてもらえます」と奥さま。



ゆるやかに広がっていく 自分たちの世界

パッシブソーラーを取り入れ、ご主人こだわりのそとん壁(※)やアカマツの無垢の床材など自然素材を効果的に使用。真冬でも足元から底冷えすることがない上に、夏は夕方家に戻った時でもモワッとした暑さがなく、四季を通じて快適ですと奥さま。パッシブソーラーの換気効果と断熱・気密工事が、心地よい家づくりにつながっていることは間違いないようです。

室内は心地良さを考え、あえて天井高を抑えました。寝室のある2階から階段を降りたところに台所があり、家事導線はコンパクトに。一見、収納スペースが全くないと言っていいほどすっきりと整ったダイニングですが、創作家具や、階段下の物入、屋根裏部屋に収納がしっかりと備わっており、使い勝手もいいそう。「触り心地が気持ちいいです!」という、丸みのある階段の手すりも、実は設計士のこだわり。構造を強化するための丸柱は、Sちゃんの木登り遊びに大活躍。訪れた取材スタッフに真っ先に披露してくれました。

※「そとん壁」・・・シラス台地の「シラス」から出来ている外壁材で、100%自然素材なのに完全防水性、透湿機能があり、紫外線や風雨による退色・劣化がおきにくく、汚れも付きにくい。高断熱・高保湿効果で、一年中室内を快適に保ってくれる。素朴で上品な外観からは想像できない、高機能・高耐久性のある塗り壁。

photo(左):備え付けのソファは、お気に入りの場所のひとつ (中央):玄関ポーチからウッドデッキを見る (右):やさしい陽の光が差し込む2階の個室



キッチンからは、デスクも備わったLDK、その向こうには奥行きがあるウッドデッキと整えられた庭まで見渡せます。散歩道になっているという路地からの視線や向かいの住宅の目隠しに、木の塀や在来種の木々をバランスよく配置。「四季を通じて、草木に小さな花が咲くのがうれしいです。家が出来てから、草抜きや庭いじりが案外楽しくて。今はなかなかできていないけど、年をとっても好きな植物を植えたり手入れをしたりするのが楽しみです。」とご夫妻。
 子供部屋もしつらえていくだろうし、将来娘がいつか赤ちゃんを連れてきて、この小上がりの和室に赤ちゃんを寝かせて…と想像するのも楽しいですね、と奥さまはうれしそうに話してくださいました。  

photo(左):収納棚を中心にぐるりと廻れる動線 (右):外とゆるやかに繋がる



かけがえのない時間を包み込む 自然素材の家

そんなほがらかなご夫婦の暮らしも、お子さんの小さい今は慌ただしく過ぎるばかり。仕事の服を脱いだらお母さんの顔に。保育園に子供を迎えに行って、スーパーに立ち寄り、右手は荷物、左手には小さな手。お友だちと手品をしたよ、とSちゃんのお話を聞きながら、テキパキと食事の用意。お絵描きやぬりえが大好きなSちゃん。「見て見て~!」と描いた絵を持ってきてキラキラの笑顔。お気に入りのソファーでくつろいでいた裸足のご主人も、Sちゃんの遊び場でもある隣の和室で一緒に遊びます。食事前のひと時、オープンなダイニングにやさしく響く親子の笑い声。温かいライトと共に家族の気配がこの家をあたたかく包み込んでいます。

 今日も明日も、日々はそんなには変わらない。うまくいかない時だってある。しょんぼりする時もある。毎日一生懸命で、今が精一杯。でも、笑って話せばなんてことない。

 そんな日々こそ、家族で過ごすかけがえのない時間。みんな笑顔で楽しく暮らそう。自然素材のやさしい家は、慌ただしい日常をおおらからかに受け止めてくれる、Hさんご家族にぴったりなお家でした。

photo(左上):家族がいつもいる場所でお勉強 (右上):オリジナルのキッチンと背面収納 (左下):キッチン・ダイニングから庭を見る。木の塀と木々が目隠しとなりプライバシーを守ります (右下):リビングの奥は、小上がりの畳コーナー

高松市 H邸
2018年5月竣工
延床面積:107.35㎡(32.53坪)
構造:木造2階建て
設計・施工:(株)菅組

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工事現場紹介「正善寺本堂・鐘楼門改修工事」



完成すると見えなくなる 場所の見せどころ

JR財田駅の登り口に佇む、浄土真宗本願寺派の古刹(こさつ)「正善寺(しょうぜんじ)」。
現在、本堂(本瓦葺き約600㎡)と鐘楼門(銅板一文字葺き)の屋根の葺き替え工事中です。

photo:桔木の取り付け完了時の様子



そこで今回は、57本の「桔木(はねぎ)」を宮大工の手で取り付けしている様子をご紹介します。
 「桔木」とは、社寺建築の屋根勾配に沿って外側から小屋裏に深く差込み、軒先の屋根の荷重を支える部材のことです。
小屋組自体は既存の梁を補強し、経年劣化して下がった軒先は、ジャッキアップして正規の高さに戻してから新しい桔木で支えなおします。

photo(左):協力して桔木を運びいれます (右):桔木の取り付け打ち合わせの様子



photo(右):桔木を取り付ける「前」 
   (左):桔木を取り付ける「後」



香川県産の檜(ひのき)の桔木

 今回の桔木は、隣町のまんのう町仲南の山の谷あいに育った曲り癖(アテ)のある檜です。
平均樹齢80年、最長10m、最大600㎏にもなります。
 レッカーで吊って足場に一旦預け、人力で小屋裏へ引っ張り込み、所定の位置に取り付けます。

 瓦を葺いて完成すると見えなくなってしまう「桔木」。

photo(左):複雑に入り組んだ内部  (中央):一丸となって取り組みます (右):迫力のある桔木



 宮大工は、隠れてしまうところで「仕事」をします。
建物本体の耐震補強も含めて、来年春の完成を目指します。

photo:桔木の設置リスト 下の写真>改修前に真上から撮影したもの

現場名:正善寺本堂・鐘楼門改修工事
場所:香川県三豊市財田町
監修・監理:(有)磯野建築事務所
施工:(株)菅組


■「お寺の再生」シリーズで動画を公開中


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菅組の目指す持続可能な開発目標(SDGs)



菅組の目指す 持続可能な 開発目標(SDGs)

自然と寄り添い
地域に生きる企業として
私たちが担う責任と役割


Sustainable Vision(サスティナブル・ヴィジョン)

私たちが企業活動を行うことで地球が少しずつ再生され、地域社会が豊かになり、
社員及び関わる全ての人びとが幸せになる建築・土木集団を菅組は目指します。
*サスティナブル・ヴィジョンとは、菅組の目指す未来のありたい姿です。

木とともに。

一世紀以上前から讃岐の地に根づき、建築にたずさわってきた私たち。それは同時に地域の木を使い、風景をつくってきた歴史でもあります。
 時代は変わり、新技術、新製品が登場して様々な価値観が多種多様に生まれる昨今。その中でも、変わるべきもの、変わらざるべきものを見定め、設計から施工まで「良い建築を自分たちの手でつくる」という精神は、普遍的な私たちの信念です。
 私たちは、「木とともに」というコーポレートメッセージを掲げています。木材を利用した建築をつくり続けると同時に、木を育て「木とともに」生長し、人と暮らしを見つめながら地域に密着した活動を続けていきたいと思っています。

自然の恵みと暮らす

 先進技術が発展し、豊かな国に暮らしている私たち。ボタンひとつであらゆることがコントロールできる機能的な生活は、とても便利で快適なものです。
 しかしそれは、時として環境に大きな負荷をかけていることがあります。豊かな自然を守るために、私たち菅組ができること。例えば、建物に太陽光エネルギーを利用したシステムを導入したり、いつかは自然に還る自然素材、伝統素材を使ったりと、自然の恵みや特性を最大限に取り入れることです。
 環境への負担を減らし、自然の恵みに感謝しながら暮らせる住まいがあれば、生活する人もまた、自然を五感で感じながら、人間らしく暮らす事が出来ると思うのです。



(左):健康への影響の少ない無垢材、和紙、漆喰などの自然素材、伝統素材で暮らしに安心を。使い終わった後も自然に還る、環境にも人にも優しい素材をできる限り使いたいと思っています。

(右):住宅以外にも、心安らぐ木造建築を採り入れています。*写真:オフィス建築の内部



(左):太陽熱エネルギーを最大限に活用するパッシブソーラーハウス(OM ソーラー、びおソーラ―)や、体の芯から温める薪ストーブの設置の推進。

(右):再生可能エネルギーの促進。
事務所で使う電気は事務所で作ります。現在建設中の工事現場事務所には太陽光発電システムを導入。

建築からつながる世界

 讃岐の宮大工として創業し、100年以上の長きにわたり、この地域に深く根を下ろし、この土地の気候と風土、文化、伝統に支えられてきた菅組は、この土地の風景をつくること、文化と伝統を継承することの一端も担ってきたと自負しています。
 ある時、私たちの使っている木はどこからどのように来ているのだろうと、疑問に思いました。その疑問は、私たち建築集団としてのあり方を問う大きな転機となりました。
 私たちに出来ること。業務内容や資材、備品等の調達方法を見直していくこと。古材を再利用すること。建物の柱や梁等の構造材、建具や家具もできるだけ国産材や香川県産材の、近くの山の木を使うこと。「大黒柱伐採ツアー」で、新築住宅等の大黒柱になる檜や杉をお施主さんの目の前で伐採し、私たちの暮らしと自然の繋がりや山を守ることの意味を考える、学びの場を提供すること。
 今後さらに長い将来にわたって郷土の美しい自然と風景、長く続いた文化と伝統を守り伝えていくために、菅組はできるかぎり地域の環境を、そして地球の環境を保全する事業を行うことが使命であると考えています。



【フェアウッド調達】
建築に関わる全ての資材を見直し、フェアウッド(伐採地の森林環境や地域社会に配慮した木材・木材製品)調達を進め、木材デューデリジ ェンス(違法伐採木材等の排除)を推進しています。
■賞状:当社のクリーンウッド法事業者登録証(2017 年登録)



【カートカン®自動販売機の設置】
脱プラスチックの取り組みとして、建築現場に紙製飲料容器カートカン®自動販売機を設置しました。
*「カートカン®」とは、缶の形状をした紙製の飲料容器です。
ヨーロッパで開発されたシステムを凸版印刷株式会社が、高度な技術で改良開発を行い、東南アジアと日本における独占販売権を得て、1996 年に初めて日本に導入しました。
(参照元:凸版印刷サイト「カートカン®とは」より編集)



【古材の活用】
古民家の魅力を活かすリノベーション、古材の再利用。
残すべき地域の風景、文化や技術も守り、継承するために。



【近くの山の木を使う(国産材・県産材の積極的利用)】

「近くの山の木で家をつくる」運動は、2001 年“緑の列島ネットワーク”の「千人宣言」から始まりました。
私たち菅組も賛同し、コンセプト住宅「讃岐舎(さぬきのいえ)」をはじめ、建材に国産材や香川県産ひのきを積極的に利用しています。森林が健全に育成するためには、間伐は欠かせないもの。ですが日本では間伐材の需要が少なく経費が出ないため、ほとんどの山が放置され、山の荒廃が進んでいるのが現状です。
そのような状況を少しでも改善し、健全な木材が育つようにという願いも込めています。
一方、海外から輸入する木材は比較的安価で手に入りやすいものですが、そこにかかる輸送の環境負荷は大変大きく、また自然豊かな熱帯雨林等から絶滅危惧種の木材などが違法伐採され、生態系に悪影響を与えており、昨今大きな社会問題にもなっています。また先住民族や労働者の争いを引き起こし、貧困に繋がっていることも往々にしてあります。私たちの暮らす地域の近くの山の木を使うことは、そのような倫理的配慮の上でも理にかなっていることなのです。



(左):S邸に代表されるコンセプト住宅「讃岐舎(さぬきのいえ)」が香川県で初となる「ウッドデザイン賞 2020」受賞
かがわ県産ひのき住宅助成事業の創設と普及に協力。
(右):間伐材の端材で作った大黒箸、大黒バッジ。

生物多様性を育む取り組み

 人間と多くの生き物たちが共生できる街が、本当に豊かな街なのではないでしょうか。 生き物たちが安心して暮らせる街にするには、私たちが住む家や庭も、生態系の一部だと意識することからはじまります。そのためには、ただ植物を植えるだけでなく、さまざまな生き物たちの生命の営みを見ることができるようなビオトープとしての庭づくりを心がけたいものです。庭を持つことが難しいお施主様には、屋根の緑化「草屋根」を提案しています。
 それらは景観や機能としての家づくり、庭づくりにとどまらず、地域の生態系が連続する「エコロジカルネットワーク」を形成することに繋がっていきます。



【生態系に配慮した庭づくり】
モデルハウス「讃岐緑想」の庭には約 60 種類、約 720 本の草木を植栽しています。
ほとんどの植物を在来種のものとし、近くの里山で採種した地域種苗も多く使用しました。
讃岐緑想ではその取り組みが評価され、2020 年に戸建てモデルハウスとして全国初となる JHEP 認証事業(最高ランクのAAA評価)として認められました。
※ JHEP:(公財)日本生態系協会が定めた、生物多様性の保全や回復に資する取り組みを定量的に評価・認証する制度です。



【木を植えよう。未来のために「鎮守の森 Project」】
2009 年に、菅組は創業 100 周年という節目を迎えた際、その記念事業に“森を蘇らせる男”と呼ばれている宮脇昭氏※① を招き、氏の指導のもと社屋の周りや地域の中に、ふるさとの木「潜在自然植生※②の苗木」54 種類 5,300 本を宮脇氏の提唱する「宮脇方式」で植樹しました。その事業を皮切りに、これまで支えてくれたふるさとの人々へ感謝の意を込めて立ち上げたのが<ふるさとの森をつくる「鎮守の森 Project」>です。
土地本来の木々は根がまっすぐ張り、地震や豪雨でも地面が崩れません。潜在自然植生の木を植えることは、人間、動物、地球のあらゆるものの命を守ることでもあります。
家を建てたお施主様には、この 3 本の苗を「三本木鎮守」と名づけてプレゼントしています。街のあちこちに小さな森が点在すれば、それがやがてネットワークを形成して、生き物が飛び交うようになります。木々が育ち、潜在自然植生の森が増えていく未来を期待してこれからもこの取り組みを続けていこうと思っています。


【菅組感謝の森(社会貢献の森)】
当社は林野庁(四国森林管理局 香川森林管理事務所)と「社会貢献の森」という森林整備活動に関して平成 24 年に協定を締結し、以来毎年国有林の間伐や枝打ちなどの森林整備活動を年2回行っています。

photo(上):鎮守の森project参加者の集合写真 (左下):三本木鎮守の植樹 (右下):菅組感謝の森(社会貢献の森)


※① 宮脇 昭(みやわき あきら)
1928 年~2021 年 岡山県生まれ。
国内ではタブノキやシイ、カシ類を中心とした常緑広葉樹の森、海外ではブラジル・アマゾンやマレーシア・ボルネオ、ケニアの熱帯林、中国・万里の長城の落葉広葉樹林など、世界1,700 ヵ所以上で 4,000 万本以上の土地本来の樹林を十数年間で再生させる植樹事業の指導を展開した実績を持つ、植物生態学の研究と実践の第一人者。
2021 年7月死去。

※② その土地に本来自生し、生態系に最も適した樹種群のこと。

地域のこと

 山と海に囲まれた自然豊かな環境。歴史や情緒を感じる古い街並み。
 菅組のある街には、路地を歩けば人と人が触れあうようなあたたかい日常がひろがっています。
 私たちの仕事は建築をつくることですが、地域に密着する企業として、香川の風景や風土を守りながら「地域をつくる」「まちをつくる」という視点で地域社会に関わっていくことも大切だと考えています。



【地域の交流地点 古材と薪ストーブのお店「古木里庫」】
古材と薪ストーブ、雑貨の展示販売。ギャラリ ースペースはキャンドルナイトや地域の方による味噌づくり体験会やマルシェ、アーティストによる展示会、ライブなどイベントの催しに活用していただいています。



【仁尾の街並み再生プロジェクト「仁尾縁(におよすが)」と宿泊事業 】
仁尾で古くから営む建築会社として、古き良き建物を後世に残し、商家の街並みや文化を保存することで、この土地で生活を営む人々と訪れる方との縁、伝統ある価値と新しい価値との縁を紡いでいきたいと考え、2020 年 11 月に仁尾の街並み再生プロジェクト「仁尾縁」をスタートいたしました。今後、少しずつ古民家を再生させ、このような宿や商店を街なかに点在させ、仁尾縁としての機能を持たせながら、仁尾らしい地域の在り方を模索していく計画です。

仁尾の街並み再生プロジェクト「仁尾縁」の第一弾となる「多喜屋」は、江戸時代の商家を修復・再生、再利用した趣ある一棟貸しの宿。海鼠壁や梁、建具など、できるだけ元の伝統素材を活かしました。



(左):父母ヶ浜の近くに佇む、建築家堀部安嗣氏の設計による「讃岐緑想(さぬきりょくそう)」。この土地の風土と等身大の暮らしを受けとめる泊まる住宅です。

(右):父母ヶ浜を一望できる、グランピング施設「仁尾サンセットピーク

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〔森里海から No.59〕家の浦 二頭獅子



文・写真 菅 徹夫

 香川県にはなんと800組もの獅子舞が現存していて、その数日本一なのだそうです ※1。そのうち「県指定無形民俗文化財」に指定されているものが5組あります。虎頭(とらがしら)の舞(東かがわ市白鳥、昭和44年指定)・尺経獅子舞(東かがわ市川東、昭和44年指定)・吉津夫婦獅子舞(三豊市三野町吉津、昭和49年指定)・綾南の親子獅子舞(綾歌郡綾川町、昭和52年指定)そして家の浦二頭獅子舞(三豊市仁尾町家の浦、昭和29年指定)です。中でも、家の浦二頭獅子は県下で最も早くに指定を受けています。いわば香川の獅子舞の頂点に君臨する獅子舞と言っても過言ではありません。

photo:特別な設えの獅子頭と油単(ゆたん)。半端ない風格がある。



 神亀(じんき)年間(奈良時代)より伝わると言われ、猛々(たけだけ)しく勇壮(ゆうそう)な舞振りは武道の流れをくんだ古流小笠原匍獅子(はいじし)の流儀。豊作踊り的な獅子舞とは趣を異にし、静的・動的に雄雌二頭が調和のある動きを見せる、格調が高く気品のある獅子舞です ※2。獅子頭は150年程前の高松の伏見伊八郎という作家の作品で、一般的な獅子頭に比べて2倍以上の重さがあるそうです。また獅子の着物「油単」は赤のラシャ地に刺繍が施された豪華なものです。

 地元では本芝(ほんしば)※3と呼ばれる20数分に及ぶフルバージョンの舞は、詫間町の船越八幡宮と地元仁尾町家の浦地区の大将軍神社での奉納の際に演じられます。香川の他の一般的な獅子舞とは明らかに異なる、独特のリズムとテンポに龍笛(りゅうてき)の音色が絡んで独自の世界を作り上げます。その演技も個性的で、雌獅子の背返り(横にでんぐり返りを見せる)など見所も豊富です。二頭獅子には夫婦獅子や親子獅子などがありますが、ここの二頭獅子は恋人同士だと地元の人から聞きました(確証はありません)。いずれにせよ、神社を背景に境内で繰り広げられる舞は、観衆を巻き込んで別世界へと連れて行ってくれます。一見の価値ありです。

※1) Webサイト「物語を届けるしごと」より。
※2) Webサイト 讃岐丸亀「basara88」より。
※3) 完全版の舞のこと。これに対して簡略版を「半芝(はんしば)」と呼ぶ。半芝は主に御旅所での舞の際に使われる。



 昨年(2020年)と今年(2021年)は残念ながらコロナ禍の影響で中止になりましたが、来年は久しぶりにお目にかかれることを楽しみにしたいと思います。地元大将軍神社での奉納は毎年10月の体育の日(祝日)の13時頃から、船越八幡宮での奉納は10月の第一日曜、こちらは地域の7組の獅子舞が同時に奉納されます。大迫力です。

 香川の西讃地区のお祭りと言えば「ちょうさ祭」ですが、地区によっては獅子舞が盛んな地区もたくさんあります。後生に残していきたい大切な伝統文化のひとつですね・・・。家の浦二頭獅子舞は昭和29年8月に香川県無形民俗文化財に指定され、現在は「家の浦二頭獅子舞保存会」によって保存継承されています。

photo(左上):背後の新しい本殿は弊社で施工させていただいた。名脇役を演じられただろうか。 (右上):それはスローテンポではじまる。 (左下):150人程度の地元の人たちが観衆。 (右下):舞が終わると長い拍手喝采の後、周囲は満足感と感動の空気に包まれてなかなか立ち去ろうとしない。

※写真は全て2011年10月のもの

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〔大工のはなし〕第20回『鑿の特等席』



これは大工さんの腰ベルトに付けている本革製の鑿差しです。
よく使う鑿を、1本から2本、常に腰に付けています。
鑿とともに本革の味わいが増しているのがよく分かります。
丈夫で、鋭い鑿の刃もしっかりと受け止め、雨風にも負けない丈夫な鑿差し。
大工さん一人が所有している数多くの鑿の中から、選ばれた鑿がその一つのポケットに入れられます。
いわば、その鑿の特等席。大切に手入れをされている大工道具の相棒のひとつとなっています。


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〔information〕・菅組公式サイトSDGsレポート開設 ・仁尾一齣



 この度、当社とSDGsの関わりをまとめたブログ「SDGsレポート」を菅組公式サイト内に開設いたしました。
 このページでは、菅組が企業活動を通じてどのようにSDGsの達成に貢献するか。これまで実行してきたことや活動状況について、対外的な発信を強化するとともに、当社の自主的取り組みの推進を一層後押しすることを目的として、発信してまいります。



・松賀屋の「なまこ壁」


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