自然と寄り添う暮らし

MENU

自然と寄り添う暮らし

O邸の裏庭にある「伊予の赤石」のテーブル

あののぉ vol.74 2025 冬号

.
.
HOUSE REPORT 「時代と共に変わりながらも大切な想いを引き継ぐ家」


HOUSE REPORT 「時代と共に変わりながらも大切な想いを引き継ぐ家」

先祖代々、大切に住み継いできた家をこれから先もつないでいけるように。
Oさんご夫婦は、伝統的な造りはそのままに、この家を住みやすく改修することにしました。大家族だった時代から夫婦2人の暮らしへと、家の中身は変わっても、受け継がれてきた想いは変わりません。
今は装いも新たなこの家から、ゆったりと外を眺める時間が2人の何よりの贅沢です。


HOUSE REPORT 「時代と共に変わりながらも大切な想いを引き継ぐ家」

増築された棟を撤去し広々としたウッドデッキに。家に余白が生まれた


先代からの日本家屋を活かしたい

 のどかな田園地帯が広がる香川県善通寺市。由緒ある神社のすぐそばにあるOさん宅を訪ねました。なんといっても目を引くのは、どっしりとした瓦屋根。大工だったOさんの祖父と叔父が建てたという築64年のこの家は、伝統的な日本家屋らしく重厚な佇まいが特徴です。家の前のソテツや黒壁も美しく調和し、さらに存在感を際立たせています。
 ご主人が幼い頃には多世代大家族で住んでいましたが、その後は一家だけで暮らすように。今では子どもたちも独立し、ご夫妻のみの二人暮らしになりました。ライフスタイルの変化に合わせ思い切って住まいをサイズダウンし、住み心地を向上したいというのがご夫妻の希望でした。
 知人が菅組に勤めていたことから、初めは軽い気持ちで相談をしてみたというご主人。耐震性能への不安もあったことから、数年後、本格的に調査し、古民家改修を進めることになりました。「昭和時代の増築で風通しや日当たりが損なわれ、あちこちに傷みがきている状態でした。果たして改修が可能なのか、解体しなければいけないのではと気にかかっていて。そんなとき、菅組の設計士さんに『これは大工の技が詰まったすばらしい家。骨組みもしっかりしているし、適切に対処すれば耐震も問題ない』と言われました」


【特集】NIPPONIA 仁尾 水鏡の町

左:宮大工の仕事と思われる屋根の付いた戸袋は、そのまま残すことに 右:縁側の昔ながらの意匠はそのままに、断熱を施して快適に


暮らしやすく安心できる住まいに

 改修にあたっては、菅組の他の事例なども参考にしながら住まい方を熟考。ダイニングキッチン、寝室、納戸と各部屋に役割を持たせ、空間をムダなく使えるようにシミュレーションしました。「増築部分に隣接した部屋がいつも湿っていて暗く、長年気になっていて。使っていない部屋も多く、家を活かしきれていないように感じていました」と奥様。そこで、家の北側を覆っていた増築部分を撤去。建設当初のかたちに戻すことで、通風・採光にすぐれた日本家屋本来の良さがよみがえりました。
 心配していた耐震性能については、見かけを損なわずに家を強くする工夫が施されました。室内は元々ふすまで田の字に仕切られていましたが、縦横2辺に耐力壁を新設。さらに壁の上部は屋根の中引きまで延ばし、足下はコンクリート基礎でがっちりと補強。重い屋根をしっかりと支えられるようにしました。ご主人は「工程と進捗状況を常に細かく説明してくれて信頼できました。耐震補強も『ここまでやるのか』というぐらい、想像以上にやってくれて安心です」と感心しきり。とはいえ、梁や柱といった構造部分は先代が手がけた当時のまま。堅牢な木材と丁寧な手仕事が、今なおこの家を支えているのは間違いありません。


HOUSE REPORT 「時代と共に変わりながらも大切な想いを引き継ぐ家」

上:座敷から南側を望む。 青々としたソテツは何代も前から受け継がれているこの家のシンボル 下:縁側にかけられたスギの丸太梁。 手鉋(てがんな)の跡が歴史を物語る


こだわりが光る心安らぐ空間

 増築部分を撤去した北側の空間には、設計士の提案で新たにウッドデッキと軒屋根が設けられました。これがご夫妻の大のお気に入り。「軒先の直線のおかげで屋根がキリリと引き締まった印象です。高低差があるので、外からの視線も案外気になりません」と思わず笑みがこぼれます。
 床や天井には断熱を施し、リビングにはご主人こだわりの蓄熱暖房機も設置。最小限の冷暖房で過ごせているといいます。また、手持ちの家具に合わせて設けた納戸や、玄関の飾り棚など、お気に入りポイントを挙げるときりがないほど。
 かつて一番暗かった部屋は、ゆったりとくつろげるダイニングキッチンへと生まれ変わりました。家族が集まるときにも、賑やかな団らんの場として活躍しています。
 一方で、独特な戸袋や縁側の大きな梁、凝った意匠のガラス小窓など、そこここに光る先代の手仕事も、この家の大切な記憶を今に伝えているようです。「座敷の壁飾りには、さらにもう一代前の家から採った囲炉裏の煤竹が使われています。そんな風に私たちも、この家の思い出をどこか残しながら次の世代に伝えていけたらいいですね」


HOUSE REPORT 「時代と共に変わりながらも大切な想いを引き継ぐ家」

左:リビングとひと続きになった開放的な ダイニングキッチン 右:天井や飾り棚の工夫で広がりある玄関に。沓脱には古木里庫(こきりこ)で見つけたスギの古材を使用


本来の明るさを取り戻した家

 改修から一年経ち、一番幸せを感じるのは「リビングのソファに寝転んで窓越しにふと外を見るとき」とご主人。「本当に明るくなりました。開放的になって家が生き返ったようです」と奥様も微笑みます。実は今回の改修前に、お仏壇の改修とお墓のリフォームも行ったというご夫妻。この家がこうしてよみがえったのは、先祖と家族を大切にするお二人の想いがあったからに他なりません。
「この家は、今となっては二度とつくれないものかもしれません。その真価を分かり、一緒になって丁寧に向き合ってくれた菅組さんには感謝しています」。居心地のよいウッドデッキで、子や孫とバーベキューをするのが楽しみと語るOさんご夫妻。家も朗らかに笑っているようです。


HOUSE REPORT 「時代と共に変わりながらも大切な想いを引き継ぐ家」

左:代々農業を営むOさん。 母屋の東には大きな納屋と離れ家が連なる 右:精巧な欄間にはアクリル板を貼り、 空間ごとに断熱できるように


場所:香川県善通寺市
竣工:2024年9月
母屋改修延床面積:126.67㎡(38.39坪)
納屋改修延床面積:95.08㎡(28.81坪)
構造:木造平屋建て
設計・施工:株式会社 菅組

.
.
現場紹介 「麺づくりの未来を支える新たな製造拠点」


現場紹介 「麺づくりの未来を支える
新たな製造拠点」

 香川県の老舗・石丸製麺株式会社で、新しい乾燥麺工場の建設が進んでいます。既存工場の生産力を高めるために建てられる新工場は、鉄骨造3階建て、延床約5,200㎡。より効率的で衛生的な製造環境を整える計画です。
 現在は鉄骨を組み上げる「建て方」の最中。巨大な鉄骨が次々と立ち上がり、建物の姿が見えてきました。クレーンで吊り上げた部材をミリ単位で固定していく作業は、緊張と集中の連続です。高所での作業が続くため、安全と精度を両立させる現場監督の目配り・気配りが欠かせません。
 新工場には乾燥室や製造室、包装室、中央管理室などを配置。完成すれば、石丸製麺が守り続けてきた「120年の伝統」と「最新設備による品質管理」の両立を実現する拠点となります。

 地域に根ざしながら、全国へ、そして世界へ。
 
 この建設に携わるすべての手に、未来の建物を支えるための想いが込められています。完成は2026年10月末を予定しています。


現場紹介 「麺づくりの未来を支える
新たな製造拠点」

地域の景観に溶け込みながら、着々と建設が進むプロジェクトの全景


現場紹介 「麺づくりの未来を支える
新たな製造拠点」

「建入れ直し」:鳶・現場監督の連携による鉄骨の垂直度最終調整。未来の建物を支えるための、精度を追求する重要な工程です


現場紹介 「麺づくりの未来を支える
新たな製造拠点」

現場監督(左から) 廣瀬 颯 相坂 貴信 篠原 宏明(所長) 堀川 涼 千秋 虎太郎


【建築概要 】

工事名:石丸製麺株式会社 新工場新築工事
場所:香川県高松市香南町
構造:鉄骨造3階
延床面積:約5,200㎡(約1,576坪)
設計・監理:髙橋設計室
施工:株式会社 菅組

.
.
讃岐の山とともに生きる
父子で紡ぐ、山守りの系譜


讃岐の山とともに生きる 
父子で紡ぐ、山守りの系譜

左:林業家・豊田 均さん、右:息子の豊田 卓さん


世代を超えて継承される 山への想いと家族の記憶

 香川県まんのう町の讃岐山脈で、79歳(2025年12月現在)の今もなお現役として山を守り続ける林業家、豊田均さん。豊田さんの山は、7年から10年おきに徹底した間伐が施され、明るい日差しが差し込む「美しい山」として知られています。
 豊田さんの林業の根幹にあるのは、先代から受け継いだ「無節材」への情熱です。木の成長を遅らせても、まだ細いうちから梯子を使って丁寧に枝打ちをすることで、年輪が密に詰まり、香り高く美しい節のないヒノキが生まれます。また、伐採後の木をあえて時間をかけて自然乾燥させるなど、木の魅力を最大限に引き出すためのこだわりが貫かれています。
 こうした豊田さんの山との向き合い方を肌で感じられるのが、私たちが共に行う「大黒柱伐採ツアー」です。このツアーでは、これから住まいを構えるご家族が、自らの大黒柱となるヒノキを山中で伐採します。何十年もの間、山で育った木が倒れる瞬間に沸き起こる参加者の歓声と笑顔は、お客様と林業家が、住まいへの想いを一つにするかけがえのないひとときであり、ツアーの最大の価値となっています。
 伐採後の切り株に触れるという経験は、家族の未来に深く刻まれます。今回のツアーは、丸亀市で材木店を営みゆくゆくは山を受け継ぐ息子の豊田卓さんも参加されました。豊田さんの「山を次世代に残したい」という願いは、次の担い手へと確実に繋がっています。林業は、山と人、そして未来を繋ぐ壮大なプロジェクトなのです。


讃岐の山とともに生きる 
父子で紡ぐ、山守りの系譜

大黒柱伐採ツアー2025集合写真


讃岐の山とともに生きる 
父子で紡ぐ、山守りの系譜

左上:ヒノキの苗を6本植樹 右上:伐採の瞬間 左下:笑顔あふれる座談会のひととき 右下:協力し合って伐採に挑む豊田さん親子


.
.
〔森里海から No.74〕城川茶堂群(しらかわちゃどうぐん)


〔森里海から No.74〕城川茶堂群(しらかわちゃどうぐん)

文・写真:菅 徹夫

 愛媛県西予市城川町には、小字単位で総数52の茶堂と呼ばれる小さなお堂があります。西予市内にいたってはなんと170棟を超える茶堂があるとされ、そのうち14棟が茅葺き屋根の茶堂となっているようです。以前も高知県高岡郡梼原町の茶堂(あののぉ56号)を紹介したことがありましたが、梼原町内に残る茶堂は13棟でしたので、城川茶堂群のほうがはるかに数で圧倒しています。城川町と梼原町は、県は異なりますが隣接しており、ほぼ近い文化圏を形成していると考えられます。愛媛県と高知県の県境のこのエリアに、なぜ多くの茶堂が残っているのか。大変興味深いものがあります。 茶堂は一間または一間半四方の方形で、屋根は茅葺または瓦葺の宝形造、三方を吹き曝しとし、正面奥の板張りの一面に棚を設けて石仏などを祀るのが代表的な形状です。茶堂はかつて「おこもり」の場であり、地区中の者が集まって酒宴や情報交換をする一種のコミュニティスペースとして機能していたようです。現在でも、茶堂を舞台として通行人への接待や虫送りなど様々な年中行事が行われているのだそうです。


〔森里海から No.74〕城川茶堂群(しらかわちゃどうぐん)

宝形屋根の頂部の納まりがそれぞれ個性的でおもしろい


 代表的な茶堂を見て回りましたが、比較的よく手入れされていて保存状態は良好なものが多いように感じられました。おそらく管理している地域住民の方々の愛着や文化意識の高さがそうさせているのでしょう。小さく個性的なお堂たちは、それぞれが異なる表情を持ちながら地域や街の風景を形成しています。地域のシンボルとして住民の精神的な支えにもなっているように思います。コミュニティの場という機能と共に、時代を超えてずっとここに有り続けてほしい建築です。


〔森里海から No.74〕城川茶堂群(しらかわちゃどうぐん)

左上:切妻瓦屋根の茶堂もある 右上:内部の様子 下:大型(二間 x 二間)の茶堂


.
.
〔大工のはなし〕第35回『欄間が息づく下駄箱』


〔大工のはなし〕第35回『欄間が息づく下駄箱』

 香川県三豊市仁尾町にある七宝山十波羅蜜寺 吉祥院(しっぽうざん じっぱらみつじ きっしょういん)。このたび、大工の熟練の技により、長年の間に老朽化していた山門と鐘楼門が再生され、往時の様相を取り戻しました。
 高欄(こうらん)、破風板(はふいた)、懸魚(げぎょ)、門本体に至るまで、風雨にさらされ傷んだ木材を見極め、伝統工法と現代の技術を融合させて昔の姿を丁寧に再現。繊細な彫刻が施された懸魚は、まるで命を吹き込まれたかのように精緻であり、まさに匠の技の結晶といえます。
 歴史ある建築の魂を次世代へとつなぐため、妥協することなく、手仕事で仕上げました。

.
.
〔information〕自然と調和する新たな拠点 まもなく完成


〔information〕自然と調和する新たな拠点 まもなく完成

左:施工後 右:野芝を植える前


 建設工事が続く高松営業所で、まもなく建物の完成を迎えます。
 本建物では、1階屋根全面に在来種の野芝を用いた草屋根を採用しました。地域の環境条件に適した在来種を選定することで、長期的な維持管理のしやすさと生態系への配慮を両立しています。緑が季節ごとに異なる表情を見せ、訪れる人にやわらかな印象を与える草屋根は、エコロジカルネットワークの一端を担う存在でもあります。
 自然との関わりを大切にしたこの建物は、風景の一部として静かに息づき、持続可能な建築のあり方を示す新たな拠点となる予定です。
 菅組はこれからも、人と環境にやさしい空間づくりを通じて、地域社会に貢献してまいります。


  1. ホーム
  2. 地域のこと
  3. あののぉ
  4. あののぉ vol.74 2025 冬号

関連する取り組みはこちら

TOP